月次で迅速に予実差をつかみ、すぐに手を打つ
月次決算をいかに正確にスピーディに作成できるか、予算と実績を比較分析し、経営課題を発見すると同時にいかに早く手を打てるかが、上場できる会社の要件の1つだと考えます。たとえ上場を目指さなくても、強くて良い会社の条件と言ってもよいと思います(この連載の第1回・第2回でくわしく説明しました)。
当時のユニクロはこれとはほど遠く、月次決算は本決算も含め、顧問税理士にすべて作成してもらっていて、月次決算書は毎月翌月の20日過ぎに受け取っていました。翌月末近くになることもありました。それではいけません。
とにかく社内で正確・迅速に仕上げて、月次の予算と比較して、勘定科目ごとに大きな差異があれば原因を調べ、できるだけ早く何らかの手を打たなくては月次決算の意味がありません。
当時のユニクロは、仕入れた商品を現金小売するという単純な構造なので、得意先への請求書の遅れなどで月次の締めが遅れるということもなく、仕入先からの請求書が遅れているのを早めてもらうとか、社員の残業代計算の遅れについて給料日自体を変更することなどで乗り切ったりした程度で、迅速化は早めにできるようになりました。もっとも、経理マンを採用してから、経理を自社内で完結する(自計化と呼びます)まで数ヵ月かかりましたが…。
将来の成功要因とリスクを洗い出し、
成長目標を設定する
上場準備の最初の段階で、「ユニクロを将来にわたって成功させるための要因は何でしょうか? その陰にひそむリスクは何ですか?」という問いを柳井さんに投げかけました。その答えに基づいて、各部門担当者に「ここをこうすればユニクロは成功する」といったような成功要因の植え付けと検討・実施・徹底をお願いしました。
そのときに指示したポイントは、商品の絞り込み、分かりやすいプライスラインの設定、仕入ルートの短縮化、自社企画商品、完全買い取りの実施、商圏と出店場所を決める、接客業務の短縮化、販売オペレーションの標準化、チラシと広告宣伝効果、売上と経費の標準化でした。もちろん、時間のかかる地道な仕事ばかりなので根気がいります。
当時のユニクロは他社の商品を買い取って販売していましたが、これらの成功要因のなかの太字にした部分にSPA(製造小売業)の萌芽が見られます。
商品品種を絞り込んで、自社企画商品を作り、返品せず完全買い取りしていく決意は、裏返せば相当なリスクを伴うものです。まったく1枚も売れないかもしれないし、在庫コストもかかります。今となっては柳井さんの先見の明と言えるでしょうが、当時は経営に対する相当な「覚悟」と「リスクに賭ける胆力」といったものを感じました。
(本稿は『強い会社をつくる会計の教科書』安本隆晴著からの抜粋です)
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