これは、あまりに商品数が多いために選択することができなくなって思考停止に陥り、結局多すぎて選べないという心理が、“何もしない”という行動になり、多くの企業で便宜的に未指図商品として採用されている定期預金などで運用するか、あるいは「とりあえずよく知っている定期預金にしておこう」という行動になるからだといえるだろう。

 米コロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガー氏の著書に『選択の科学』(原題:The Art of Choosing)という本がある。この本によれば、米国の401kプラン(確定拠出年金)においても、加入者が選択できるように用意されている商品数が多くなればなるほど、株式投資信託ではなく、公社債やMMFなどへの投資が増える傾向があるようだ。

 同書では、401kの加入率(米国では任意加入が原則)は、採用商品数の増加と反比例して低下する傾向にあることも指摘している。つまり、選択肢が増えることによって「情報負荷」による思考停止が起こり、必ずしも良い選択をもたらすわけではないということが401k以外の事例でも紹介されているわけだ。

運用商品数に上限を設定

 これが、日本でも同じような傾向になっているのは前述の通りだが、さらにこの傾向は加入者の運用成績にも影響している。実際に筆者が運営管理業務をやっていたころ、当時の商品採用数の平均は約16本だった。

 調べてみると、商品数が平均より多い企業の加入者の運用成績よりも、少ない商品数の企業の加入者の運用成績の方が明らかに上回っているというデータが示された。これも、適切に分散されたポートフォリオで運用するのと、定期預金のみで運用した場合の違いがはっきり出てきたということではないだろうか。

 こうした事実を踏まえて厚生労働省では、17年1月に施行された確定拠出年金法の改正に伴い、運用改善を目的として、運用商品数に一定の上限を設けることが政令で定めた。

 筆者もこのときに開かれた「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」で委員を務めていたので、状況はよく把握しているが、当時、多くの金融機関からは「法律で上限を定めるというのはいかがなものか」「商品は労使で協議して決めるもの。行政が介入すべきではない」という声が多く上がった。