元財務大臣が十代の娘に語りかけるかたちで、現代の世界と経済のあり方をみごとにひもとき、世界中に衝撃を与えているベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス著、関美和訳)がついに日本に上陸した。
ブレイディみかこ氏が「近年、最も圧倒された本」と評し、佐藤優氏が「金融工学の真髄、格差問題の本質がこの本を読めばよくわかる」と絶賛、ガーディアン紙(「新たな発想の芽を与えてくれるばかりか、次々と思い込みを覆してくれる」)、フィナンシャル・タイムズ紙(「独自の語り口で、大胆かつ滑らかに資本主義の歴史を描き出した」)、タイムズ誌(「著者は勇気と誠実さを併せ持っている。これぞ政治的に最高の美徳だ」)等、驚きや感動の声が広がっているその内容とは? 一部を特別公開したい。

そもそも「お金」とは何なのか?

 考古学者によると、世界最古の文字はメソポタミアで誕生したらしい。メソポタミアはいまのイラクとシリアのあたりだ。では、文字を使って何を記録したのだろう? 農民がそれぞれ共有倉庫に預けた穀物の量を記録していたのだ。

 倉庫の共有は、とても理にかなっている。農民が一人ひとり倉庫を建てて穀物を貯蔵しておくなんて面倒だし、みんなで同じ倉庫を使って、番人に見張ってもらうほうがずっと楽だ。

 でも、そうなると預かり証のようなものが必要になる。たとえば、「ナバックさんは100ポンドの穀物を預けた」と証明するものが要るはずだ。

 文字が生まれたのは、そんな記録を残すためだった。記録があれば、それぞれの農民が何をどれだけ共有倉庫に預けたかを証明できる。

 だから、農耕が発達しなかった社会では、文字は生まれなかった。木の実も果物も肉も魚も十分にあったオーストラリアのアボリジニや、南アフリカの先住民の社会で、音楽や絵画は発達したけれど文字が生まれなかったのはそのせいだ。