元財務大臣が十代の娘に語りかけるかたちで、経済の本質をみごとにひもといた世界的ベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス著、関美和訳)が、パンデミックのために世界的な激変が起きているいま、必読の一冊として話題だ。
ブレイディみかこ氏が「近年、最も圧倒された本」と評し、佐藤優氏が「金融工学の真髄、格差問題の本質がこの本を読めばよくわかる」と絶賛、朝日新聞(「一冊で仮想通貨や公的債務の是非、環境問題まで網羅している」「知的好奇心を刺激するドラマチックな展開に、ぐいぐい引き込まれる」梶山寿子氏評)、読売新聞、毎日新聞、週刊文春等、多くのメディアで取り上げられ、経済書としては異例の16万部のベストセラーとなっている。その魅力はどこにあるのか? 本書より、不況になると何が起こり、救いはどこにあるのかを論じた部分を特別公開したい。
歯車が「逆回転」しはじめる
金融危機のあとには不況がくる。誰にも借金があり、誰もそれを返済できない。銀行が破綻すれば、預金者は預金を失う。お金持ちも、先行きが不透明なので支出を抑えるようになる。経済を前に進めていた循環のプロセスが、今度は逆の方向に回りはじめる。
起業家から顧客は離れていき、新しい機械の注文はキャンセルされ、労働者は解雇される。失業した人たちは、まだ潰れていない起業家からものを買えなくなり、生き残っている会社も瀬戸際に追い詰められる。事務所や工場は閉鎖される。大勢の働きたい労働者たちに仕事はなく、本来は人を雇いたい企業も、人を雇ってものをつくっても、買ってくれる人がいないのではないかと恐れることになる。
一方で、家を買った人たちはローンを返済できなくなる。銀行は自宅を差し押さえて二束三文で競売にかけ、貸したカネの一部を取り戻す。だが、売りに出されている家はあまりに多く、人々の懐はあまりにも淋しいため、数多くの家が空き家のままで残され、住宅価格は崩壊する。
大量倒産。大量失業。それが、銀行の傲慢さの後に残る轍である。誰もがそのしっぺ返しを受ける。貧乏な人や無実の人にも、災いはふりかかる。
そんな悲惨な悪循環を終わらせる力を持つのは、誰だろう?