腰痛Photo:PIXTA

「慢性痛」の名医として知られる横浜市立大学付属市民総合医療センター・ペインクリニックの北原雅樹教授は、日本の腰痛治療は根本的な原因を見逃し、「安易に手術を勧めるケースが多い」と嘆く。最近は腰痛で増えている、ある「意外な原因」について解説してもらった。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

発達障害が原因だった
2つの意外な症例

 前回は、主に高齢者の腰痛で多く見られる誤診の症例を紹介した。今回は20代~40代に多く、近年話題になっている「発達障害」が原因の症例を紹介する。

【症例1】

 20代女性。腰痛を訴えて来院。

 美容専門学校を卒業し、美容院に就職した。髪を触ることやおしゃれは好きなので、向いている職業と思われたが、接客に苦労し、腰痛が始まった。仕事をするのがつらく、病院を複数受診したが、原因不明。一向に改善しなかった。腰痛が耐えられなくなった頃、同僚から結婚を申し込まれ、寿退社。

 身体を休めれば腰痛も解消すると期待したが、常に臨機応変を求められる主婦業に苦戦。「片づけられない」ことを夫に責められのをきっかけに夫婦仲が険悪になり、並行して腰痛も悪化。「死んでしまいたい」と感じるほどの、強いストレスを感じている。

 北原教授は発達障害を疑い、まずは成育歴などを幼少期までさかのぼって聴取した。さらにさまざまな心理検査を行い、その結果を心理師・精神科医も交えたカンファレンスで話し合い、発達障害であることがまず間違いない、と診断した。

 発達障害にもいろいろあるが、女性は、複数のことを同時に進行させることが苦手な発達障害だった。もちろん普通の人でも、同時にあれもこれもと一緒にやるのが苦手な人はいる。だが発達障害の場合はそれが極端で、あることをやっている間に違うことをやり始めると、最初にやっていたことを完全に失念してしまう。