「素人」であるマンション管理組合にしてみれば、「大規模修繕工事のプロ」と称する設計士やコンサルタントからそのような提案をされたならば、「そういうものなのか。じゃあ、予防保全のほうがいいんだな」と頭から信じきってしまうのも無理はないだろう。

 しかし、私に言わせれば、これは「嘘(うそ)」である。マンションの維持保全はそんなに単純に言い切れるものではないのだ。

「予防保全はコスト削減につながる」
という定説は間違っている

 マンションで大きな維持保全といえば、大規模修繕工事が挙げられる。よく「大規模修繕工事は12年周期で行うべき」といわれるが、これは「一定の時間経過とともに修繕をする」ことになり、予防保全に該当する。

 しかし、実際に築12年程度ではマンションはそこまで大きく傷んだりはしない。にもかかわらず、「一定の時間が経過したから」というだけの理由で行う修繕工事ほど不経済なものはない。

 連載第21回「マンション大規模修繕工事は『12年周期』が決まりという誤解」でも明言しているが、「大規模修繕工事は12年周期で行うべき」というのは、そのことで利益を得る人々によって広められた“都市伝説”のようなものにすぎないのだ。私はこの「大規模修繕工事12年周期説」を真っ向から否定する。

 もちろん、「12年経っても、修繕工事をまったくする必要はない」というわけではない。例えば機械式駐車場の場合、急に機械が故障して、車を出すことができなくなってしまった、ということになっては困る。エレベーターについても同じことがいえるだろう。このように、故障に至ってから修繕対応をしていては間に合わないという設備の場合は、定期的なメンテナンスが必要だ。こうした設備については予防保全の考え方でいいだろう。

 そんな「故障したらすぐに困る」という設備は除くとして、壊れてもいないのに、入念すぎるほど整備を施したり、一定期間が過ぎたらすべてを取り替えたりすると聞けば、単純に考えて無駄だとは思わないだろうか。皆さんの自宅で、電球を使い始めて一定時間が経過したからと、まだ切れてもいない電球を一斉に交換するだろうか。そんなことをしている家があるとはとても思えない。見栄えやイメージを重視するホテルですら、電球は切れたら交換するというスタンスなのだ。

 考えていただきたいのは、「最後まで使い切る」という事後保全のメリットを金銭価値に置き換えてみた場合、それがいくらになるかという点である。ある大学の建築学科の論文によれば、予防保全は事後保全よりおよそ3倍のコストがかかるという。実際には、論文ではもう少し細かく条件が設定されており、単純に約3倍のコストがかかると言い切ってしまうのは少々乱暴なのだが、私としてはおおむね間違ってはいないと感じている。