将来のために今の楽しみを
人間は我慢することができない

 ではなぜそうなったのか。行動経済学から考えると、その理由が見えてくる。

 行動経済学では、「双曲割引」とか「時間割引率の大小」といった概念が出てくるが、ごく簡単に言えば、人は遠い将来の安心のために今の楽しみを我慢することができない生き物だ。だからこそ、会社は本来支払うべき給料の一部を積み立てて、社員が将来退職した後に支払うという制度になっているのだ。

 最近、会社によっては退職給付制度を廃止し、本来退職給付として積み立てるべき分を給料に上乗せして支払うという会社も出てきている。いわゆる「退職金前払い制度」だ。

 一見するとこの制度は、毎月もらえる給料が増えるわけだからいいようにみえるが、問題が2つある。

 まず、税金の問題だ。退職金や企業年金は税制上優遇されているが、給料に上乗せして支払ってしまうと所得税がかかってくるため、税金が高くなる。さらに重要なことは、上乗せしてもらうのはいいが、将来に備えるために、強い意志を持って自分自身でためていく必要がある。

 現実問題として、これはなかなか困難だ。あの強い意志を持つイチロー選手でさえ、「Deferred Payment」を利用しているわけだから、一般のサラリーマンにとって何をか言わんやだ。

「朝三暮四」ということわざがある。

 昔、中国の宋の時代に狙公(そこう=猿回し)が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、「朝に3つ、暮れに4つやる」と言うと、猿が少ないと怒った。そのため、「朝に4つ、暮れに3つやる」と言うと、たいそう喜んだという故事だ。結果は同じなのにもかかわらず、目先にこだわり惑わされることに対する戒めだ。