たとえば、ゴミの回収ボックスにセンサを取り付け、ゴミの集積状況を集めたデータをもとに回収頻度を調整するというデジタル化がある。この取り組みで収集されるデータの量はけっして多くない。つまりスモールデータだ。ビッグデータを集めなければ新たな価値を生み出せないわけではなく、少ないデータを分析するときにはAIも必要ない。表計算ソフトの「エクセル(Microsoft Excel)」を使えば十分な分析ができる。

 こうした分野は世の中に膨大にある。デジタルといえばビッグデータ、それを分析するためのAI。そのように短絡的に決めつける必要はない

 以前、グーグル(Google)のAI「アルファ碁(AlphaGo)」が、囲碁棋士の世界チャンピオンに勝った。その準備過程で、全世界に残る棋譜を集めてAIに分析させようとしたら、たった16万棋譜しかなかったという。AIに分析させるには、16万棋譜では足りない。そこで16万棋譜を読み込ませたAIを二つつくり、AI同士で対戦させることで新たに3000万棋譜を作成した。それくらいの量のデータが集まってようやくビッグデータになり、分析するときにAIが有効になる。

 世の中の経済活動を見渡してみても、大量なデータを集めなければ新たな価値を生み出せないケースはむしろ少数だ。データ・ドリブン・エコノミーを考えるとき、あまりビッグデータやAIにとらわれなくていい。

ドラッカーが示唆するデジタル革命の未来

 これから長い年月をかけて、本当の意味でのデジタル革命が社会に浸透していく。その過程で、さまざまな製品・サービス、ビジネスモデル、産業が生まれていくだろう。しかし、その青写真を現時点で描くことはできない。