アルコールは、水より軽い。人体に有害なメタノールではなく、酒の成分でもあるエタノールを利用することで、人体への影響を心配しなくて済む。

 加えて、アルコールが消毒に使われることからも分かるように、衛生面でも優れている。燃えてしまうのではと気になるところだが、冷凍のためにマイナス20~マイナス30度の状態にしたアルコールは燃えることはない。

一般の冷凍庫の20倍の
スピードで冷凍できる

 実際に、マイナス30度のアルコールを利用して食品を冷凍すると、気体などを利用した一般的な冷凍庫の20倍近いスピードで冷凍される。通常の肉や魚の切り身は10分前後で冷凍できてしまう。

 メリットは冷凍のスピードだけではない。冷凍された肉や魚を解凍すると、ドリップという血液のような液体が出てくる。冷凍の段階でできた氷の結晶が細胞を破壊するために発生する。

 しかし、アルコールで急速に冷凍すれば、細胞内に氷の結晶ができる前に食品を凍らせることができる。そのため、解凍してもドリップが出てこない。うま味成分が流出しないから、解凍後の食品の鮮度は解凍前と比べて、ほとんど落ちない。

 こうしたメリットを生かすべく、山田は低温のアルコールを使った凍眠を開発し、1989年にテクニカンを設立した。

 ただ、発売後長らく、ユーザーには受け入れてもらえなかった。展示会に出品しても「速く冷凍できるからって何のメリットがあるの」と言われた。原理を説明してもその意味をなかなか理解してもらえなかった。

「マイナス30度の液体で冷凍する」と伝えても、「うちはマイナス60度の(気体を利用した)冷凍機があるからいいよ」と言われたこともあった。

 拡販のために山田は、凍眠を使って無償でユーザーに対するデモンストレーションを辛抱強く続けた。その際も、多くのユーザーは、実際にその効果を目にするまでは、半信半疑だったと山田は当時を振り返る。結局、売れ始めたのは発売後10年もたってからだった。