米ニューヨークに駐在経験がある人の多くは「寿司田」を知っているだろう。1980年代後半からマジソン街店と6番街店で営業を続けてきた高級すし店である。
板前は基本的に日本人であり、ネタの多くを日本から空輸していたため、日系企業も接待などに使うクオリティーの高い店だった。
しかし、この2月末を最後に「寿司田」は両店舗を閉鎖し、ニューヨークから撤退してしまった。同地では近年、日本食の人気がますます高まっている。その流れと逆行する判断に首をかしげる人がいるかもしれないが、原因はトランプ政権の移民政策にある。
「アメリカファースト」故に地元採用を優先せよとの指導でビザの発給や更新が非常に厳しくなり、日本人のすし職人を維持することが不可能になったのだ。本物品質でブランドイメージを構築してきた同店にとっては撤退の選択しかなかったようだ。現地の人からは惜しむ声が多々聞こえてくる。
専門職の場合、ビザを厳しくしたら米国民を雇うかというと、必ずしもそうはならないことをこの事例は示している。ビザ発給を絞ってインド人などの優秀なITエンジニアを多数締め出せば、企業はオフショアリング(一部業務の海外移管)を進めるか、開発拠点を米国外に移さざるを得なくなる。中長期的にはトランプ政権の移民政策は米国経済の活力を殺ぐ方に働いてしまうと思われる。
これ以外にも、米国に進出している中堅中小の日系企業では、駐在社員がビザ更新時に厳しい質問を受けたり、米国に貢献する投資を拡大しているかを問われたりするケースが増えているという。