リクルートの事例からわかる
「3つの問い」の重要性
それでは、具体的にはどう考えればいいか、2012年の分社化前のリクルートの事例を用いて説明します。
[1]事業特性
分社化前のリクルートでは、売上の約7割が人材サービス領域、約3割が販促支援の領域でした。これらの事業の特性として挙げられるのは「景気連動性が極めて高い」ということです。クライアント企業では好況時に多くの求人・派遣募集をするので人材サービスの売上は大きく伸びますし、リクルートの販促メディアにも積極的に予算を投下します。ただし、不況時には真逆の傾向となり、採用費も販促費も大幅に削られてしまいます。
[2]組織能力
そうなると「好況時には売上を伸ばすために大量に人を増やす、不況時にはコストを抑える」ことが必要となるリクルートには、おのずと高い「人件費の調整能力」が必要となります。好況時に人を増やすのはいいのですが、コストの大半を占める人件費を不況の際に抑えられないと事業が行き詰まることになるので、リクルートのような企業においてはOut施策もセットで準備することが必須となります。
また、リクルートは顧客・事業の特性上、5年選手であっても20年選手であっても売上金額に大きな差が生まれづらいので、若手メンバーがミドルに差し掛かるあたりに一定の割合で卒業していく(もしくは数年間限定の契約社員として採用し、定期的に卒業していく)ことは、組織の新陳代謝・人材の流動性の担保のみならず、人件費の観点でもメリットがあります。
[3]人事施策
そのため、リクルートの人事戦略は「まずは優秀な人材を多く採用し(In)、早い段階から彼らのポテンシャルを引き出し(Grow & Motivate)、一定の時期に一定の人が気持ちよく卒業、もしくは不況時に人員数を素早く絞れる(Out)状態を実現する」と言い表すことができます。
リクルートの人事施策については、優れた採用施策・育成施策・モチベート施策などに目が行きがちですが、他社がなかなか真似できないリクルート人事の真骨頂は、「Out」の人事施策群をベースとした人件費の調整能力にあると私は考えています。
ここ数年のリクルートは、分社化、グローバル強化、サービスの多様化、働き方改革などが随分と進んだため、現在はこのようなモデルと一致しない部分もあるとは思いますが、少なくとも10年前のリクルートの事例は実に見事です。
このように自社の「事業特性」を理解し、それをベースとして自社の成長を実現させる「組織能力」と、採用以外の観点も含めた「人事施策」をデザインし実行する。これこそが今も昔も変わらず、人事に関わる者として必要なことではないでしょうか。
採用が重要であることは間違いないですが、採用はあくまでも自社を成長させるための1ピースでしかありませんので、採用担当者は採用に限らず人事全体・事業全体の理解に努めることが求められるでしょう。