平成22年度(2010年度)以降、有効求人倍率は見事なまでに右肩上がりで上昇の一途をたどっており、いわゆる「売り手市場」であることは誰の目に見ても明らかです。多くの企業が人材不足や良い人材が採れないという悩みを抱えています。では、このような状況下で成果を出し続ける企業はどのような取り組みをしているのか。今年4月に『採用に強い会社は何をしているか ~52の事例から読み解く 採用の原理原則』を刊行し、現在はLINE株式会社 Employee Success室 副室長を務める青田努氏に、本書で掲載されている事例や原理原則を抜粋して紹介してもらった。

人事が向き合い続けるべき「3つの問い」

青田 努(あおた・つとむ)
LINE株式会社 Employee Success室 副室長
リクルートおよびリクルートメディアコミュニケーションズに通算10年在籍し、「リクナビ」の学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用担当を務める。その後、アマゾンジャパン、プライスウォーターハウスクーパースなどで人事マネージャー(おもに中途採用領域)を経て、2015年より日本最大のHRネットワーク『日本の人事部』にて、人事・人材業界向け講座の企画・運営、HR Techメディアなどのサービス立ち上げに携わる。2017年にLINE株式会社入社、2018年7月より現職。1999年、筑波大学 第一学群 人文学類 卒業。2014年、早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。組織学会、人材育成学会、日本マーケティング学会会員。著書に『採用に強い会社は何をしているか』(ダイヤモンド社)がある。

 人事の世界では定期的にバズワードが生まれます。ここ数年でざっと思い当たるだけでも、リファラル採用、ダイレクトリクルーティング、戦略人事、No Rating、女性活躍、働き方改革、1on1、ティール組織、HRBP、採用広報、CHRO、副業、リモートワーク、People Analytics、HR Tech……など枚挙に暇がありません。SNSやビジネス系メディアをにぎわすこれらの概念や事例は、あたかも正しいことのように君臨し、多くの悩める人事担当者にとっては救世主のように見えることもあるでしょう。

 ただし、採用担当者として忘れてはならないのは、「いきなり解に飛びつかない、先に How を求めない」ということです。拙著『採用に強い会社は何をしているか』においても多くの事例を取り扱いましたが、人事の務めはあくまでも自社の事業と組織と人の課題に向き合うことであり、他社の「解」(=他社事例・ソリューション)に飛びつく前に、まずは人事にとって重要な「問い」に向き合うこと、これに尽きると私は考えます。

 それでは、人事にとって重要な「問い」とは何か。私は次の3つだと考えています。

[1]事業特性:自社の事業の構造・メカニズムは? 自社の事業はどうすれば成長していくのか?
[2]組織能力:「事業特性」を踏まえた際に、自社にとって必要となる組織能力は何か?
[3]人事施策:「組織能力」を実現させるために何をするか?(採用はこれらの施策のうちの一つに過ぎない)

 これらをセットで考え、一貫性を持たせて実現させていく。これこそが人事の役割と言えるでしょう。人事の役割は「経営に資す、事業に資す」、あくまでも「事業を伸ばしてこそ」です。そのためには、これらのハードな問いから逃げてはいけません。