いずれにせよ日本人は古くから夢を「過去」の経験が変形したものではなく、「彼方」に存在するものに由来し、多くの場合それは「未来」からやってくる「予知夢」のようなものと考えてきた。『君の名は。』は、その正統な後継といえるだろう。

◇『鬼灯の冷徹』による「再境界化」

 2014年および2017年~18年にかけてテレビ放映されたアニメ『鬼灯の冷徹』もまた、宗教学や民俗学、昔話研究を援用しながら分析できる作品だ。日本の地獄をベースにした世界観の本作は、原作者江口夏実がインタビューで答えているように、水木しげるの妖怪マンガ、鳥山石燕、河鍋暁斎、葛飾北斎の絵画などの影響が強く見られる。

 現代の日本人の多くは、「黄泉の国」や「地獄」の存在をただの絵空事として受け取っている。だが『鬼灯の冷徹』は新たな地獄像を描くことで、地獄を「再境界化」することに成功している。

「新たな境界」を設定し、既存の「境界」を攪乱することで日本人の信仰心を明らかにしようとする文化的試みは、これまで学問領域でも行われてきた。だが『鬼灯の冷徹』はそれを見事にエンタメ化させている。境界の再設定という文脈において、この作品のもつ意義は大きい。

◆かわいいと怖い
◇かわいいキャラクターによる恐ろしい世界の冒険譚

 10年代アニメで見られる新たな傾向として、かわいいキャラクターを登場させ、一見「幼稚」な作品のように見せつつも、じつは恐ろしい世界を描くという手法が挙げられる。

 2017年に放映された『メイドインアビス』がその一例だ。本作は大穴「アビス」の探索に挑む少女・リコと、少年型ロボット・レグの冒険譚である。各キャラクターは「ちびキャラ」のようなかわいらしい姿で描かれているが、その設定はシビアだ。「アビス」は7層構造で、下の階層から上の階層へ戻ろうとすると「アビスの呪い」と呼ばれる「上昇負荷」により、精神や肉体に危険な症状があらわれる。

「冒険ファンタジー」は、アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルが解き明かしたような、古今東西の英雄譚と共通している。すなわち(1)出立、(2)イニシエーションの試練と勝利、そして(3)帰還だ。