女が家に入ると書いて「嫁ぐ」という言葉は、そろそろ死語になるかもしれない。一昔前は、義実家との気苦労といえば主に妻側の話だった。現代は「マスオさん」でなくても、夫側にもそれなりに気苦労があるもの。夫から見た義実家問題を探った。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)
嫁姑問題の裏に隠された
「嫁の実家」問題
古来より、“家”には嫁姑問題がつきまとっていた。夫を挟んで、あるいは夫の頭越しに嫁と姑が対立するケース、どちらか一方がもう一方をいびるケースなどがそれである。嫁と姑がうまくいかない根っこの原因はいくつか考えられるが、「夫・息子の無意識的な奪い合い」や、「元は他人だった人間同士が急に家族になることの難しさ」といったところが代表的なものであると推測される。
嫁姑問題は脈々とクローズアップされてきたので、それぞれに警戒心がそれなりに育まれていて、近年では「お義母さん・お嫁さんとうまくやっていこう」と努力している嫁姑が多く見られるようになってきた。だからかつてに比べれば社会全体の嫁姑問題はいくぶんか改善されてきているかもしれない。
そうした中であまり語られないのが「嫁の実家」問題である。これも時代の流れの話になるが、かつては「女性が男性の家に入る(嫁ぐ)」が当然とされていて、嫁ぎ先での嫁の地位は低く、その家で最も偉いのは家長たる祖父・父親、または夫であった。
すなわち旦那衆は根本的なところで「嫁の実家が何ほどのものか」を押し通すことができたのである。しかし近年では家督を継ぐことの重要性に対する認識が大きく変わってきていることや核家族化などがあって、妻の実家と夫の立場がほぼ対等であることも多い。夫は「娘さんを頂戴した身」として妻の実家に気を使い始めるようになる。
“嫁姑問題警戒世代”の夫なら妻の実家とも折り合い良くやっていきたいところだが、難しさは嫁姑問題に通ずる部分があって、思わぬ心労を抱え込む羽目にもなる。「嫁の実家問題」がクローズアップされてきていないのはこのケースが嫁姑問題に比べて少ないからだとも考えられるが、それでもあくまで“少ない”であってゼロではない。ここではいくつかの「嫁の実家問題」を紹介したい。