発売からわずか1ヵ月で8万部を突破し、大きな反響を呼んでいる戦略デザイナー・佐宗邦威氏の『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』――。ビジネスの世界に蔓延する「他人モード」から抜け出し、自分なりの「妄想」を起点にアウトプットする方法を説いた同書は、各界トップランナーからも圧倒的な評価を得ている。

しかし、何も根拠がない内発的なアイデアが、なぜビジネスを駆動させるモチベーションになりうるのだろうか? そこで今回は、『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』などの著書があるIT批評家・尾原和啓氏と佐宗氏とのオンライン対談を企画した。全3回にわたってお送りする対談シリーズの最終回(構成:高関進)。

尾原氏が海外在住ということもあり、当日はオンライン会議システムZOOMでのリモート対談取材となった。

「機能のイノベーション」から
「意味のイノベーション」へ

佐宗 僕は『直感と論理をつなぐ思考法』を、単なるイノベーション本にしたくなかったんです。イノベーションは、革新。新しく変えていくという変化という考え方ですが、目的のない「変化のための変化」にはあまり意味がないと思っています。
今後、世界ではますます「勝者がすべてを牛耳る」という構図が加速すると思っていて、それはそれで仕方がない部分もあると思うのですが、他方では必ず、個々の人・組織が歩める「けもの道」みたいなものが裾野で広がっていかないと、社会的にバランスが悪くなりそうだという思いがあるんです。
このような流れを、『突破するデザイン』(日経BP社)の著者で、ミラノ工科大学教授のロベルト・ベルガンティは「イノベーションをデザインする」「意味のイノベーション」と表現しています。これについて、尾原さんはどう感じていますか?

尾原和啓(おばら・かずひろ)
IT批評家、藤原投資顧問、書生。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(共著、日経BP社)など多数。

尾原 ちょうど山口周さんもから教わったことがあって、世の中には「役に立つ」と「役に立たない」という「機能」の縦軸と、「意味がある」と「意味がない」という「意味」の横軸があり、今までは縦軸での競争が繰り広げられてきたわけです。

佐宗 でもそういう時代が終わりつつありますよね。機能価値だけでの差別化には、もう限界が来ている。

尾原 そうなんです。たとえば、アップルはずっと「機能のイノベーションによって世の中が変わる」と言い続けてきた会社ですが、先日3月25日の製品発表はある種の「敗北宣言」だったように思いました。

彼らは「自分たちはクラウドの世界に行く」と発表したわけですが、これはハードウェアにおける機能革新が限界に来ているということにほかなりません。

一つの時代の変化ポイントになったのではないかと思いますね。

佐宗 そうすると今度は、機能のまぶしさに負けない横軸、「意味」が大事になってくる。

尾原 そう、「役に立って意味がある」、あるいは「役に立たないけど意味がある」ことのほうがずっと重要になってきます。

ベルガンティはその事例としてローソクをあげています。ヤンキーキャンドル社は電気がこれだけ普及した時代に、ローソクの売り上げをまだ伸ばしている。それはなぜかというと、ローソクのもつ「灯りをともす」という機能は電灯というイノベーションに消し去られたわけですが、実はローソクには「明るくする」という機能以上に「人の気持ちをロマンティックにする」という意味があった。

そこを拡張した結果生まれたのが、アロマキャンドルです。

佐宗 つまり、デザインの役割が「機能をわかりやすく伝える」ということから、「意味を抽出してその意味を伝えていく」にシフトしたわけですね。

尾原 しかも、意味のイノベーションは内発的な起源を持つものですから、人それぞれの意味があるはずなんです。

だからまさに「けもの道」に近い。その辺りをテーマにすれば、まだまだ語るべきことはあるはずですから、佐宗さんにはぜひ第2弾、第3弾と本を出してもらわないと(笑)。

「ないものがない時代」を導く妄想力

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

佐宗 たとえばプロダクトにしても、以前ならモノそのものに価値があったわけですが、いまでは、消費者が「私にとってはこういう意味だ」と自分を投影する媒介になっていて、価値づけは人のほうで行われる。

つまりプロダクトがメディアのような役割を持ちはじめています。だから、つくり手の側でも、いろいろな解釈の余地を残すようなプロダクトを生んでいくことが大事になるのかなと思っています。

今回の本も、そういう設計思想がベースにあって、実際、いろいろな人のレビューを見ていると、「刺さって」いる部分が本当に人それぞれなんですよね。作り手としてはとてもうれしい現象です。

尾原 昔は、価値観の変化みたいなものも、読み取りやすかったと思うんです。

でもいまは違うなと。『モチベーション革命』のなかでも使った言い回しですが、「ないものをあるにする時代」と「ないものがなくなってしまった時代」との違いではないかと思います。

ないものがあった時代には、ないことのつらさを紛らわすための「大きな物語」が必要でした。

だからこそ、消費やテレビや宗教が求められた。しかし、すでにないものがなくなった現代においては、「自分たちの中にあるもの」を高めてやっていくしかありません。

その結果生まれているのが、自分たちの中の「あればほしいもの」を束ねていって、小さなコミュニティをつくるという流れです。

佐宗 そういう時代では、イノベーションの方法論を日常文化に取り入れるというアプローチが有効になってくると思いますし、実際そういうことができる人がこれからどんどん出てくるだろうなと。

尾原 でしょうね。しかもこれって、すごく日本人のメンタリティにも合っているんです。

これはけんすう(古川健介)さんが言ってたのですが、欧米人は「目的のためには手段を選ばない人たち」なのだとすれば、日本人はひと言で言うと「手段が目的化する人たち」なんです。「手段のためには目的を選ばない」と言ってもいいかもしれません。

「片づけ」にしろ「英会話」にしろ「ダイエット」にしろ、本来の目的を忘れて、手段そのものを目的にしている。それはすごくダメなことのように言われますが、僕はそんなことはないと思っています。手段を目的化するなかで、日本人は新しい価値を生み出していくのが得意だと思います。

佐宗 その感覚は僕もよくわかります。『直感と論理をつなぐ思考法』のなかでも、僕はこれを「何のためのメソッドなのか?」というのを実はあまりはっきり言っていません。妄想を使ってアウトプットする楽しさを感じていると、そこからとてつもないものが生まれてきたり、仲間が集まってきたりする。狭義の「目的」は捨象しているんですよね。

尾原 だからこそ、最初の話に戻りますが、佐宗さんの今回の本は、ビジョン思考の世界における「こんまりメソッド※」なんです。ぜひ佐宗さんもアメリカ進出を(笑)。

佐宗 本書の考えを新たな視点で見ていただいて、楽しい時間でした! ありがとうございました。

(対談おわり)