「論理に裏打ちされた戦略があってこそ、成功にたどりつける」――これがかつてのビジネスの常識だった。しかし「他者モードの戦略」は、いたるところで機能不全を起こしつつある。その背後で、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えているのは、「根拠のない妄想・直感」を見事に手なずけた人たちだ。
そんななか、最新刊『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』を著した佐宗邦威氏は、いま何を考えているのか? P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の「戦略デザイナー」が語る「感性ベースの思考法」の決定版!!
「考える→手が動く」を逆転し、
「手を動かす→考える」にしてみる意味
僕たちは何かを実現しようとするとき、まず「頭で考えてみよう」とする。
ビジネスプランを考えるときには、まずパワーポイントやワードを立ち上げるという人がほとんどだろう。しかし、多くの人はある段階で手が止まってしまい、悪い意味で「思考が煮詰まる」状態を経験する。
こうした状態を避けるには、いきなり「言葉」からはじめるのではなく、「感覚」からはじめてみるという方法である。感覚を刺激する方法はいろいろとあるが、よく言われるVAK、すなわちVisual(視覚)、Auditory(聴覚)、体感覚(Kinesthetic)という軸で考えてみるといいだろう。
たとえば、体感覚(Kinesthetic)を重視したエクササイズとしては、レゴブロックを使った方法がよく知られている。
子どものおもちゃとして知られるレゴブロックだが、レゴ社の教育部門で研究開発統括をしていたロバート・ラスムセンが、パパート教授の「構築主義」をベースにしながら、大人向けの教育ツールとしてまとめたのが、レゴ・シリアス・プレイ(LEGO® Serious Play)である。
直面している課題や望ましい未来をレゴブロックで表現し、それを取り囲みながら対話や振り返りを行うことで、解決の糸口を掴んでいくこの方法は、チームビルディングや戦略立案にも活用され、世界的にもかなり広く知られるようになってきている。
心理療法の世界では、患者が自分の心的状態をミニチュア玩具で表現し、そこに隠れている認知の歪みを顕在化させていく箱庭療法(Sandplay Therapy)が用いられることがある。レゴ・シリアス・プレイもまた、「手を動かすこと」によって問題を掘り起こしていく点では、これによく似ており、「妄想」を活性化させたいときにも応用できる。
やり方はシンプルだ。ある「お題」に対して、限られた時間・限られたピース数で何か作品をつくる。たとえばこんな具合だ。
ポイントは「考えずにとにかく手を動かす」ということ。
僕らは「何をつくるかを考えてから、手を動かすこと」にあまりにも慣れ過ぎている。その「順序」を壊すことが、このエクササイズの目的だ。
ひとまずパッと2つのブロックを取り上げて、それをランダムに組み合わせてみよう。その色や形態を眺めるなかで、自分が何をつくっているのかに気づくという順序でかまわない。そうしたらまた、思いつきで別のブロックをつけ加えたりして、また何か新しい解釈が生まれないかを試してみる。とにかくあまり悩まずに、子どもが遊ぶときのように手を動かし続けよう。
子どもは「何をつくろうか」などと考え込んだりしない。適当に組み立てたりするなかで、だんだんとアイデアの輪郭をはっきりさせていく。
制限時間が終わったら、その作品の「タイトル」を正方形のポストイットに書こう。あまり悩まず、1分くらいでパッと言葉にするのが望ましい。ネーミングの作業は、自分がつくったものの本質を抽出する「コンセプト化」の訓練になる。つくり終えたら、作品とタイトルをセットにしてスマホで撮影し、ストックしていくのもおすすめだ。
自宅にレゴブロックがある人はぜひ試してみてほしいが、できれば同僚や友人、パートナーや子どもと一緒にやってみるといいだろう(もちろん、一人でやってみてもOK!)。また、素材はレゴである必要はない。手元にある文房具や本、雑誌の切り抜き、段ボールや紙ねんどなどを組み合わせてみてもいい。参考までに、もう1つお題を上げておこう。
あなたの「あんなこといいな、できたらいいな」を叶える「ひみつ道具」をレゴでつくってみてほしい。
これもやり方は同じである。「どんな道具があったら便利だろうか?」とか「解決すべき問題は何か?」といったことは考えなくていい。まずは気になるピースを手にとってみて、適当に組み合わせる。
観察してみたとき、それは何に見えるだろうか? 「この部分が羽みたいだな」とか「この穴からは何が飛び出すだろうか」というように、あくまでも視覚情報を起点にしよう。最後に、ひみつ道具に「名前」をつけ、ポストイットに書いたら完成だ。
作品が完成したら、ぜひ「なぜその作品をつくったのか?」も考え、自分の根源的な欲求を見つめてみよう。
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。