なぜ、何もしていない前会長と前社長に
2400万円の退職金を払ったのか?

近藤宣之(こんどう・のぶゆき)
株式会社日本レーザー代表取締役会長
1944年生まれ。債務超過に陥った子会社の日本レーザー社長に抜擢。就任1年目から黒字化、以降25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。役員、社員含めて総人員は65名、年商40億円で女性管理職が3割。2007年、日本初の「MEBO」で親会社から独立。2017年、新宿税務署管内2万数千社のうち109社(およそ0.4%程度)の「優良申告法人」に認められた。日本経営合理化協会、松下幸之助経営塾、ダイヤモンド経営塾、慶應義塾大学ビジネス・スクールなどで年60回講演。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」、第3回「ホワイト企業大賞」、第10回「勇気ある経営大賞」など受賞多数。「人を大切にする経営学会」の副会長も務める。著書に、ロングセラーとなっている『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』などがある。
【日本レーザーHP】
http://www.japanlaser.co.jp/
【夢と志の経営】
http://info.japanlaser.co.jp/

編集部:『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』に詳しく書かれてありますが、1994年に近藤会長が親会社から日本レーザーに送り込まれたとき、前会長と前社長に退職金を満額支払っていますよね。前会長には400万円。前社長には2000万円
この2人は、日本レーザーの債務超過を野放しにした張本人ですから、退職金を支払わなくてもよかったはずです。なぜ支払ったのでしょうか?

近藤:親会社に相談しても明確な答えはもらえなかったので、結局、私が決断するしかない。だったら、満額払ってしまおうと。

小山:私が近藤会長の立場でも、同じように満額支払ったと思います。なぜなら、残された社員が安心するから。
日本レーザーの社員は、近藤会長が前会長、前社長に退職金を支払ったのを見て、こう思ったはずです。
「この社長は、人を大切にする人だ」
つまり近藤会長は、退職金というお金を払った代わりに、残された「社員の心」を買ったわけです。

近藤:おっしゃる通りです。
私は日本レーザーを黒字にするために社長になったわけですから、「退職金を支払わない」という選択をしたほうが財務上は得です。
ですが、退職金を支払うという「損する選択」をとったことで、社員は、
「この会社は、何があっても、退職まで面倒を見てくれる」
「この会社は、どんな状況に陥っても、退職金を払ってくれる」
「この会社は、自分と家族を守ってくれる」

と感じ、力を発揮してくれるようになりました。
その時点では「損」だと思っても、あとになって得することがある。
自分に損な意思決定をしたほうが、経営は成功すると思います。

小山:ダスキンの経営理念の中にも、
「損と得とあらば損の道をゆくこと」
と書いてあります。
会社を経営していれば、大切なもののために、あえて損をしなければならない場面が必ずやってきます。
そのときにいつでも損ができるように、会社は、常に利益を出しておかなければいけませんね。

払わなくていい2400万円の退職金を払って社員の心を買った理由――武蔵野71歳社長vs日本レーザー75歳会長【修羅場経営者初対談1】

(対談2回目に続く)

ps.(編集部より)「25の修羅場」の詳細は、第1回連載「倒産寸前から売上3倍、自己資本比率10倍、純資産28倍!「25の修羅場」が「25年連続黒字」をつくった理由」をご覧ください。きっと、近藤氏が血反吐を吐きながら、泥水を飲みながらのここまでのプロセスの一端を垣間見れるかと思います。