「エストニア行き」を目的にしない

エストニアに行く前にまずすべきこと。それは目的意識を明確にすることだ。現地生活を約1年続けた筆者の目には、視察に来た日本人の95%は、「来ること」そのものが目的化しており、その先のビジョンをまったく描けていないように映る。いや、そもそも「描くつもり」がないとさえ思えるほどだ。

「何ができるか確かめるためにエストニアに行くんじゃないか」という声もあるだろう。それでも、自社のどんな課題にアプローチしたいのか、現地企業にどのようなことを期待しているのか、は最低限事前に明確にするべきだ。これらをクリアにして、現地企業に伝えることが第一歩目となる。

同時に、現地企業に提供できる価値を明確にすることも重要である。自分たちと会うことによって、彼らにどんなメリットがあるのか。その点を明確にしなければ、現地企業は会ってくれない。たとえば、エストニア企業とのパートナーシップの提案や、実際に彼らのプロダクトを日本で展開する際の支援案、ライトなところであれば、日本の同業種の概況をリサーチしたうえでのディスカッションも、彼らにとっては価値になることもある。

事前のリサーチも必須だ。エストニアの電子政府の取り組みや、スタートアップシーンの概況はすでに日本語で書籍や記事の形でまとまっている。訪問企業の情報もウェブで公開されているし、透明性が高いエストニアではすべての企業の財務情報さえも公開されているのだ。お互いに自社の自己紹介は事前に済ませ、対面での商談では本質的な議論に集中すべきだろう。

また、現地企業から「日本人は時間を守ると思っていた……」といった声を聞くことも多い。確かに日本人は会議の開始時間は守る。ところが終了時間となると、平気で30分、1時間と時間オーバーするケースが少なくないのだ。エストニア人は時間に厳密だ。当然のことだが、始まりの時間のみならず、終わりの時間も守ることもマナーである

そしてミーティングの最後には、アクションアイテムを決定したい。上述したように、「Keep in Touch」で終わるミーティングは価値がないと言ってもいい。議論した中から前に進める材料を見つられたのであれば、次につながるアクションをコミットするべきだ