ミドル起業家最大の特徴、それは豊富な社会人経験に裏打ちされた、ビジネスへの高い対応力だ。
「BtoB型のベンチャーでは、顧客が一般消費者ではなく大企業となることが多い。そのときに、企業内部の“パワーバランス”や、導入のボトルネックとなる要因を知っている社会人は、若手に比べて有利になる」。ミドル起業家を専門に投資支援をするXTech Venturesの波多江直彦氏は、そう説明する。
ミドル起業ブームは、ITの裾野の広がりとともにある。
かつてのベンチャーであれば、モバイルゲームといったようなITの世界だけで完結するサービスが多く、数人の若手の技術者がいれば起業は容易であった。
ところが、今はあらゆる既存産業にITが潜り込んでいる。建設業や医療、金融といったIT化に取り残されたレガシー産業に、むしろ大きなビジネスチャンスが眠る中で、業界のしきたりを熟知する経験者が求められるようになっているのだ。
そうした経験者が参画することで、一気に事業が成長する例も多い。医師がつくるオンライン医療事典サービスを提供するメドレーは、もともと起業家であった瀧口浩平氏が2009年に立ち上げた企業。その後、旧友の豊田剛一郎氏が共同代表として参加したことで、現在の医療サイトサービスの開始につながった。豊田氏は、日米で医師として活躍した後、コンサルティング会社のマッキンゼーへ転職した、業界と実業を知るエリートだ。人材の多様化は、現在のベンチャーにおいて欠かせない流れになっている。
“嫁ブロック”が最大のハードル?
求められる支援
だが、そもそもこうしたミドル起業は、実は米国では一般的だ。全米経済研究所のピエール・アズレー氏らの調査によれば、米国で成長率が上位1%のスタートアップ創業者の創業時の年齢は平均45歳だというから驚きだ。
Apple創業者のスティーブ・ジョブズ氏やMicrosoftのビル・ゲイツ氏らといった若くして起業した成功例が目立つが、実は米国のベンチャーを支えるのもミドル起業家なのだ。
日本でミドル起業がさらに根付くには何が必要なのか。
前出の波多江氏は、ベンチャーキャピタル(VC)などによる支援が重要だと説く。
ミドル起業家にとって最大の難点は、養うべき家族の存在だ。ベンチャー経営者に対して、「事業が黒字化するまで安月給で働け」といった風潮はいまだ根強いが、既に企業で高年収を得るビジネスマンにとって、収入が下がることは高いハードルになる。俗に“嫁ブロック”ともいわれるが、家族に反対されればそれまでだ。
しかし、「今では、事業計画さえしっかりしていれば、ベンチャーでも適正な給料をもらっていいという流れができている。そこにVCが多めの投資額を設定することで、ミドル起業のハードルを下げることができる」(波多江氏)というのだ。
家族の理解がむしろ起業につながった例もある。空きスペースを貸し借りできるシェアリングサービスを手掛ける前出のスペースマーケット代表の重松氏だ。