フェンスを掴む手Photo:PIXTA

 封入した書類がそろっているか幾度も確認し、封を剥がし数えないと落ち着かない。

 こんな経験は誰にでもあるだろう。ただ、意思に反して確認行動を繰り返し、仕事や生活に支障を来す場合は全般性不安障害や強迫性障害と診断されることもある。

 広島大学大学院総合科学研究科・杉浦義典准教授と米セントラルフロリダ大の研究から、こうした行動には「過剰な責任感」と「考え続ける義務感」が共通して絡んでいることが示された。

 研究者らは米国の大学生539人を対象に、数種の質問票を使って責任感と心配および強迫傾向との関連を調査。

 回答を解析した結果、過剰な責任感には(1)良くないことが起こるのを、避けなくてはいけない、(2)良くないことが起きたのは自分のせいだと考え、自分を責める、(3)問題を解決する方法をとことん考え抜かなくてはいけないという義務感を感じる、という3タイプがあることが示された。

 さらに(2)の自分を責めるタイプと(3)の考え続ける義務感が強いタイプが、心配と強迫傾向の双方を強めることがわかったのだ。

 一方で(1)の良くないことを避けなければという責任感とは、有意な関係性を見いだせなかった。

 自分を責める気持ちが「まだ足りない、もっともっと考えなくては……」という義務感に拍車をかけてしまうのだろう。

 研究者はこうした「過剰な責任感」の緩和が期待できる方法として「コンパッショントレーニング(CT)」をあげている。

 CTとは、簡単にいうと「自分への思いやりを育成し強化する訓練」のこと。

 わがままや甘えと混同しそうだが、実際には自分の状況を冷静に判断して限界がある弱い自分を慈しみ、回復のためのケアを選択するタフさが必要だ。マインドフルネスや瞑想もこの範疇に入る。

 ちょうど新年度から1ヵ月半が過ぎた。もし、不慣れな環境で不安に苛まれているなら、一度立ち止まって、過剰な責任感と義務感に縛られていないか俯瞰してみるとよいだろう。自分で自分を追い詰める前に。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)