同じ本を2冊買って
読書仲間にプレゼントしてみる
読書をディープラーニングと捉えるなら、その効果を高める読書術がある。
それは、目星をつけた本を1冊ではなく2冊買うことだ。
一度に2冊買うのではない。
まずは1冊買い求めて自分で読んでみる。そして「これは興味深い」と思ったら、あらためてもう1冊買う。
新たに買い求めた本は、信頼できる読書仲間に「面白いからぜひ読んでみてください」と差し上げる。
後輩なら自分が読んだ本をそのまま渡しても失礼に当たらないが、それ以外では自分が読んで手垢がついた中古本を渡すのは礼を失する。
だから、もう1冊買うのである。
気の置けない読書仲間なら「お前がそう言うなら、読んでみるよ」と二つ返事で読んでくれるに違いない。
読み終わった頃を見はからい、「あの本、どうだった?」と水を向けてみる。
そして、熟成したワインでも飲みながら、感想を語り合うのだ。
1冊の本を何度も読むことにも意味がある。
私は、気になる本は3回読むことにしているくらいだ。
読書のディープラーニング効果を高めるという側面では、違う人間同士が読み、感想を語り合うことも重要だ。
同じ本でも違う人間が読むと、異なった感想が出てくる。
それまでの読書体験や価値観といったバックグラウンドが異なるのだから、それは当たり前のことだ。
同じ料理を食べても、味覚や食経験の違いから、違った感想が出てくるのと同じことである。
読書仲間との語らいは、囲碁や将棋の「感想戦」に似ている。
感想戦とは、対局が終わった後、勝負を振り返りながら、対局した同士が最善手などを検討するものだ。
感想戦には、勝った側にも負けた側にもメリットがある。
負けた側は「あのときはこう打つべきだった」という学びが得られる。
勝った側も「ここでもしもあの手を打たれていたら、勝負の行方は最後まで分からなかった」といった反省につながる。
立場が違うと得られる学びと反省も異なる。
互いの学びと反省をぶつけ合いながら振り返るのも一種のディープラーニングであり、実力を伸ばすきっかけになる。
ディープラーニングと聞くとイノベーティブに思えるが、同じような考え方は昔からあり、感想戦のような形で行われてきたのだ。
読書には勝ち負けはないが、1冊の本を巡って2人で感想戦を行うと、自分1人の読書では得られない気づきと学びがある。
それが本を読むディープラーニング効果を一層高めてくれる。
2冊買うとコストは2倍だが、その価値は3倍以上のことが多い。
【佐藤優氏も推奨!】
◎『週刊現代』連載「名著、再び」で大々的に紹介!
「教養」とは何かを知ることが
ビジネス成功の秘訣になる。
【著者からのメッセージ】
人生には大切なものが2つある。
1つは「友人」である。
趣味・嗜好が合い、何事も胸襟を開いて忌憚なく語り合える友人は、人生を豊かにしてくれる宝物だ。私にとっては財務相などを務めた故・与謝野馨さん、音楽家の三枝成章さんがそうであり、ヒロセ電気の社長だった故・酒井秀樹さんがそうだった。
利害損得を考えないで付き合える友人が何人いるか。
それは、その人間の懐の深さと器の大きさを反映している。
ネット社会には数々の問題点が指摘されているが、一方で共通の趣味を持つ人を見つけやすくなったのは、見逃せないメリットだ。
もう1つ大切なのは、「学習歴」である。
学歴という言葉があるが、この「学」と「歴」の間に「習」を入れると、「学習歴」という言葉になる。
私は学歴を信じていない。
それは、次のような経験があるからだ。
私が創業したドリームインキュベータでは、毎年数人の新卒採用枠に数千人ものエントリーがある。
いまは現場を退いているが、かつては私も入社希望者に面接をしていた時期があった。
面接では、世間的には名の通った名門高校から名門大学に進み、学歴は申し分なくても、「大学4年間で一体何を学んできたのか?」と問いたくなるような魅力のない人間に大勢出会ってきた。
東大卒、京大卒、ハーバード大卒といった最終学歴がどんなに立派でも、学んで習う習慣を持たない者は伸びない、魅力がない。
本来は「学歴≒学習歴」なのだ。
しかし、有名大学に入るだけで満足してしまい、学びを得ないままで卒業した人間は学習歴に乏しい。
感性も知性も人生でもっともみずみずしく、人間としてもっとも成長できる時期に、自分に何も投資しないのは極めて愚かな選択である。
学歴の代わりに私が信じているものこそ、何を学んできたかという学習歴だ。
たとえ学歴がないとしても、学習歴が豊かな人は人格的にも優れているし、学んで習うという習慣を忘れないから、ビジネスパーソンとしてだけでなく、1人の人間として成長し続ける。
その学習歴を作ってくれる手段が、読書なのである。
さきほど触れた酒井さんは、多極コネクターで業績を上げて、ヒロセ電気を売上高経常利益率が3割という超優良企業に育て上げた中興の祖である。
彼は東京都立港工業高校の出身で、大学は出ていない。
エンジニアとして極めて優秀だった。
それに甘んじることなく、読書で経営感覚を徹底的に磨いた。
学歴を学習歴が凌駕した好例である。
自分には自慢できる学歴がないと思っている人も多いだろう。
しかし、そんなことを思っている暇があったら、寸暇を惜しみ、せっせと読書に励むべきだ。
読書で学習歴を積み上げられたら、学歴は気にしなくていい。
学歴は一流、超一流へと近づく方法ではない。
読書で教養を磨き、洞察力を高めるのが超一流への近道なのである。
若いときから読書習慣をつけるのが理想だが、読書に年齢の壁はない。
何歳から読書に目覚めても遅いという話にはならない。
大学を卒業してビジネスパーソンになってから、もう一度大学に入り直して学歴を更新するという方法もある。
日本では大学は学生だけが行くところだが、欧米では社会人が大学で学び直して、再び社会に戻るケースは珍しくない。
社会人が就労に活かすために学び直す「リカレント教育」が日本でもようやく注目されるようになってきた。
しかし、まだまだ学び直したい社会人を受け入れる土壌が整っているとは言い難い。
ならば、学び直して学歴を更新するのではなく、読書で学習歴と高めるという選択肢を選ぶほうが賢明である。
心から共感できる友人がいて、その友人と読書と介した学習歴を高め合う関係を築けるのが理想である。
私にとって三枝成彰さんは、いまでもそういう得難い存在だ。
読者の皆さんにも、これから生涯に渡って読書によって学習歴を高め、豊かな人生を歩んでもらいたい。
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<目次>
第1章 二流から一流へ成長する読書術
第2章 AI時代を生き抜くための読書術
第3章 ほしいと思われる人材になる読書術
第4章 読書力を引き上げるコツ
第5章 読書こそが私という人間を作ってくれた