値上げによって競合にパイを奪われる可能性は?

 さて、ここまでは映画館一般について見てきましたが、TOHOシネマズには当然ライバルが存在します。彼らとの競争上、この値上げはどの程度の影響を与えそうでしょうか?

 例えば東京の新宿エリアであれば、同じ話題の新作を多く上映するシネコンに新宿ピカデリー(松竹系列が運営)や新宿バルト9(ティ・ジョイが運営)があります。渋谷や有楽町といった大きなシネコンが多い界隈でも似たようなことがいえます。

 5月に入ってそうした大手のシネコンも値上げに追随することを発表しましたので、結局は、彼らとの競争状況はあまり変わらないことになりました。しかし、仮に彼らが追随しなかったら、こうした地域においてライバルに顧客が流れてしまう可能性もあったわけです。これをどう考えればいいでしょうか。

 これについて筆者は、ある程度価格に敏感な層は、多少はライバルに流れてしまう可能性はあると東宝も割り切っていたと思います。例えば新宿であれば、TOHOシネマズ新宿ではなく、比較的近距離にあるピカデリー新宿に行く人は一定比率いると想定していたということです。TOHOシネマズ新宿も新しくて綺麗な映画館ですが、それはピカデリー新宿も同様だからです。

 ただ、日本全体を見回せば、そうした地域は必ずしも多いわけではありません。県によってはある新作がTOHOシネマズでしか上映していないということも多々あります。そうした地域では、観たい映画が100円高かろうが、そこを選ばざるを得ないと考えられそうです。もちろん、それゆえに別の作品を選ぶ人も多いでしょうが、話題の新作を扱うことが多いTOHOシネマズにとっては、そこまでダメージは大きくなさそうです。

 TOHOシネマズの顧客囲い込み戦略が効くと考えていた節もあります。筆者も加入していますが、TOHOシネマズには独自のシネマイレージカードがあり、6回映画を観るともう1回はタダで鑑賞することができます。auと組んだauマンデイという料金割引デーもあります。これらに加入している人間は、スイッチングコストが高くなりますから、100円程度の値上げであれば、仮に価格差ができたとしても他の映画館に行かない可能性が高いということです。

 もともと、映画料金がすべて横並びというのは、考えてみれば不思議な話です。立地が良く、きれいで観やすい映画館であれば、100円くらい高くても受容される素地はもともとあったといえます。そして実際にTOHOシネマズは、おおむね立地も良く、映画館としてはかなりきれいで観やすいスクリーンになっています。今回値上げに追随した大手シネコンも似たような状況です。つまり、彼らはそれで十分に他の映画館と競争できると考えたわけです。