真紀が謝った。

「以前、直子さんに聞かれた時、嘘をついてしまい、すみませんでした」
「どうしてもっと早く相談してくれなかったの?とにかく、社長に報告するよ?」

 直子がこう言うと、真紀は黙ってうなずいた。

真紀の母親の不可解な言動に
弁護士が伝えたこととは…

 直子から事情を聞いた社長は、真紀に改めて確認すると、直子の話した通りだという。母親に相談すると、「仕事を辞めた方がいい」と言われたという。社長は宇佐美にも確認しようとしたが、宇佐美は実家の父親が亡くなったという事情で、1週間ほど休みを取っていた。社長は「一刻も早く真紀の母親に話をしたい」と伝え、彼女の了承を得て母親に電話した。

 すると母親は「娘が会社に迷惑かけて申し訳ない。これ以上迷惑かけられないから辞めさせる」と言う。

 社長が、「事実関係をはっきりさせるため、警察に行った方がいいのでは?」と提案しても、「警察なんて恐ろしいし、娘が辞めれば丸く収まるから」と言い、「娘が迷惑かけて申し訳ない」と何度も繰り返すばかりだった。

 社長が直子に会話の内容を話すと、直子は不思議がった。

「自分の娘が殴られたっていうのに、どうしてそんな反応なんでしょうか?」

 社長も「確かに親なら激怒してもおかしくない状況なのに…」と訝しがった。今回のようなトラブルは初めてのケースだったため、社長は知り合いの弁護士にどう対応したらいいのか相談した。

 弁護士は、真紀の一方的な話だけでは事実と断定できないから、宇佐美の話も聞くようにアドバイスした。さらに弁護士は、こう付け加えた。

「あくまでも推測だが、娘が被害に遭っても公にしたくないのは、他に何か隠したいことがあるのかもしれない…」
「えっ、他に隠したいことですか?」
「そうだ」
「過去にそんな相談があったんですか」
「以前に似たような相談があり、実は加害者が父親だったというケースもあったから」
「なるほど」
「だから母親が警察に相談しないのは警察に知られると困る家庭の事情があるのかもしれない」