既契約遡及となれば、業界が大パニックに陥ることは目に見えていた。期待していた節税効果がなくなることで、中小企業からの解約が相次ぎ、果ては企業に販売した税理士などの代理店は早期解約によって、受け取った手数料を保険会社に返す必要に迫られかねなかったからだ。

 遡及なしが決まった4月10日の夜は、至る所で酒宴が催されたが、その数日後、浮かれたムードが一気に消し飛んだ。

 国税庁が示した法人税基本通達の改正案を読み込んでいくと、あることが見えてきたのだ。

 それは、企業経営者に絶大な支持を得ていた医療保険の短期払いスキームが、従来のようには提供できなくなるかもしれないということだった。

 どういうことか。多くの生保は「福利厚生の確保・充実」という名目で、企業経営者に向けて医療保険を販売している。

 さらに、保険料を支払う期間を2年や5年などに短期化させ、時に数百万円に上る保険料を、一気に全額損金として法人が処理するというスキームを組む場合があるのだ。

 関係者によると、一定の節税効果に加えて、契約期間の途中で名義を法人から個人に移せば、保険料をほとんど個人で負担することなく、終身の保障だけを経営者に移すことができるという。

 中小企業経営者のニーズの高まりを受けて、メットライフ生命保険では昨年11月から、それまで最短10年だった保険料の支払期間を、5年に短縮するプランを投入。説明会では企業の事業資金計画上、短期払いできることのメリットが大きいことに加えて、同社の節税保険(米ドル建て介護定期保険)との併売効果が高いことすらも、アピールしていたほどだった。

 短期払いスキームは、メットライフ以外にも、アフラック生命保険や第一生命グループのネオファースト生命保険、東京海上日動あんしん生命保険などにもあるため、業界全体への影響は決して小さくない。

「解釈の問題だ」(生保役員)とみた業界各社は、財務省OBや大手コンサルティング会社を巻き込みながら、5月の大型連休を挟んで、国税庁や政治家への攻勢を徐々に強めていった。