5月20日公開の本欄では、米中貿易問題はすでに企業業績にも株価にも相当程度織り込まれていると述べたが、その後トランプ米大統領はメキシコからの輸入品全体に対しても5%から最大25%の輸入関税をかけると発表した。

 この決定は6月8日に撤回されたが、トランプ大統領が再選に向けて関税カードを最大限に使うことを意味しており、株式市場も経済的に結び付きの強いメキシコからの輸入品に対する関税が導入された場合に、どの程度の企業収益に対するマイナスインパクトがあるのかを懸念する展開となった。

 米国とメキシコの貿易の3分の2は社内調達とみられることから、サプライチェーンが打撃を受け、企業収益に大きなマイナスが予想される。トランプ大統領が企業収益や株価にダメージを与えても関税を導入する方が政治的に有利だと判断したのなら、憂慮すべき事態であり「新経済冷戦が金融市場にダメージを与える」という構図が浮上しても不思議ではない。

 しかし、筆者はそこまでの悲観的な見方はしていない。今回のメキシコに対する関税は中国の場合とは違い、議会や政権内でさえも支持を得ているとは言い難かった。メキシコに対する関税が発動されなかったことは、関税は交渉の手段であってもそれ自体が目的ではないことを示している。

 加えて、昨年とは違ってFRB(米連邦準備制度理事会)が金利を下げる可能性があり、中央銀行は再び株式市場の味方になりつつある。米国が強硬路線で一致している対中国政策も、第1弾の関税が実施されたのが昨年の7月。関税は税金であり、第4弾の関税が導入されたとしてもマイナスの影響は一巡してくるとみている。

 現在の株式市場は企業業績が10%程度低下することを織り込んだ水準にあると考えている(図上参照)。われわれは業績が横ばいで推移すると予想しているが、ここ6~7年は日本企業の業績が高水準にあることから、下落に転じたときの下値が大きいのではないかと懸念するのはもっともだろう。

 しかし、日本企業は業績を引き上げると同時に、1株当たり純資産も引き上げてきた。いわゆる内部留保を蓄えてきたのであり、その分1株当たり純資産の価値が上がってきている。

 図下はTOPIX(東証株価指数)で見たときの1株当たり純資産と株価の推移だが、2011年の東日本大震災のときは例外として、歴史的には1株当たり純資産は株価の下値として機能してきた。現在の水準は1株当たり純資産から見ると下値が限られた水準であり、今後のトランプ政権の出方によっては株価が大きく回復する可能性があると考える。

(UBS証券ウェルス・マネジメント本部ジャパンエクイティリサーチヘッド 居林 通)