高齢無職世帯の平均貯蓄額は
約2500万円もある!

 むしろ、今回の報告書で最も重要なのは、後半の提言の部分である。一般に、審議会で出てきた報告書というのは、政策に反映させるよう提言することがその目的だ。ところが、金融担当大臣が今回の報告書を受け取らないということになると、その内容が政策に反映されないことになる。これは重大な問題である。

 今回の報告書での重要な論点の1つが高齢化に伴う、金融取引の認知能力の低下にどう向き合うかということである。現在も、高齢者に対する不適切な金融商品の販売は後を絶たない。そんな状況の中で、高齢顧客保護のあり方というのは個別の金融機関の問題だけでなく、金融業界全体で横断的に考えていかなければならない、きわめて重要な問題だ。

 にもかかわらず、こうした本質とは関係のない部分で騒ぎが大きくなればなるほど、「高齢者取引の保護」という観点がすっぽり抜けてしまうのは、実に懸念すべきことなのである。野党がピントのずれた攻撃をすればするほど、こうした重要な論点が見えなくなってしまい、ひそかに金融機関がほくそ笑むという構図も見え隠れする。

 次に2つ目の勘違いは、問題になった「2000万円の不足」という部分の基になるデータの解釈に対する勘違いだ。

 2000万円の根拠というのは、高齢無職夫婦世帯の毎月の生活における不足額が、月に5.5万円となっているところにある。これは総務省統計局が出した2017年の家計調査で出てきた数字が基となっている。この不足額が30年続くという前提であれば、累計で赤字が2000万円近くになるというわけだ。

 しかし、これを“赤字”と表現するのは、そもそも不適切なのである。なぜなら、家計調査のデータには、同じく高齢無職夫婦世帯の平均純貯蓄額として2484万円という数字が出てくる。ということは、別に2000万円不足しているわけでも何でもなく、平均的には仮に不足額が生じて貯蓄を取り崩したとしても、まだ500万円近い貯蓄が余るということになる。

 となれば、赤字ではなく、2500万円近い貯蓄があるから、年金収入以上にお金を使っても大丈夫ということになる。何しろ高齢“無職”世帯なのだから、収入は年金以外にはないはずだ。つまり収入はほぼ一定である。ところが、支出は自分でコントロールすることができる。つまり、決まった年金収入に加えて、自分が現在持っている貯蓄額が多いか少ないかによって、暮らしぶりを変えているということなのだ。したがって「赤字」ありきという議論は、根本的に認識が間違っている。