多くのIT企業が金融サービスの提供に乗り出し、迎え撃つ銀行界にとって、「競争と協働」が重要なテーマになっている。みずほフィナンシャルグループはこの局面にどう立ち向かうのか。そしてみずほが発表した、地方銀行と提携して取り組む電子マネーの勝機について坂井辰史社長に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田上貴大)
――デジタルテクノロジーを取り入れる上で、坂井社長は「バックキャスティング(未来から逆算して現在を考える手法)」「カニバリを気にしない」「スピードと分散」の三つを大事なものに挙げました。副業解禁はこの三つ目のスピードというテーマと密接に関わってくると思います。働き方を変える上で、スピードを上げるという要素が一番大事な項目だと捉えているのでしょうか。
スピードだけではなく、柔軟性もです。私たちは今回の基本戦略の中で、「オープンアンドコネクト」および「熱意と専門性」という二つの行動軸を出していますが、そういうところ(が大事)だと思います。
熱意を持ち、顧客に何かを言われたらそれに対して一生懸命やるというだけでは駄目で、何があるだろうかと顧客のニーズを先読みする。例えば、営業店のカウンターで顧客と話をするときに、この金融資産を買ってもらったら得ですよ、ということ(を伝える)だけではなくて、その顧客が抱えている問題や老後の不安までを捉え、私たちグループ内の機能、それが足りなければグループ外の機能まで併せて最大のソリューションをもたらしていきます。
他の例では、銀行預金をベースにしつつ、証券会社が持つ投資のノウハウで「貯蓄から資産形成へ」を促します。それも金融資産だけでは駄目だから、信託業界トップの不動産に関するノウハウを、みずほ信託銀行を通じて紹介していく。
また、ご高齢の方が息子と離れて住んでいて、自分に介護が必要になったら見守りをどうしようというニーズがあります。私たちは介護や見守りを見据えて「選べる安心信託」という商品を出していますが、こういった商品を保険会社や異業種と提携し、サービスとして提供していく。そんなことをイメージしています。
スピードも大事ですが、従来の発想にとらわれずに熱意を持ち、かつ知恵を絞るだけではなくて、体も動かして実現するという意欲。これらをオープンに外とコネクトしながら取り組んでいく。こうした行動軸が、デジタライゼーションを推進する中でふさわしいものだと思っています。
――「IT企業との競争と協働」というテーマについてですが、競争という観点では、他業種から金融業界に対する領域侵犯が続いています。その中で何に一番危機感を抱いていますか。
いろんなものがありますけどね、やはり一つは決済の部分です。これは、利便性の観点では圧倒的にテクノロジーの力で改善できるわけです。私たちもそういうものを取り入れようとしていますが、テクノロジー企業はそこに特化することで、スピーディーで柔軟な新しいサービスを提供することができる。これは非常に大きな脅威です。