テクノロジーの進化とどう向き合うか――。銀行界が抱えるこの課題に対して、三井住友フィナンシャルグループは、「企業内起業」というかたちで銀行員の発想力を鍛えるなど、新たな取り組みに着手し始めている。今年4月に就任した太田純社長に、テクノロジーとの向き合い方を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田上貴大)
――銀行はレガシー産業の一つといわれていますが、その銀行は今後テクノロジーをどう自社に取り込んでいくのでしょうか。メガバンクグループのトップに立ち、かつてはグループ内でCDIO(Chief Digital Innovation Officer)を担っていた太田社長の考えを教えてください。
難しい質問ですね。まず、テクノロジーを取り込むに当たっては、なぜそのテクノロジーが必要なのか、ということありきで考えています。例えば、顧客のニーズがこう変わっていますよとか、今後こういうビジネスが主流になりますよとか、それらに対応するためにこういうテクノロジーが必要だ、という発想で臨むべきです。こうしたニーズ起点や現場起点が大事になります。
私たちは、渋谷に「hoops link tokyo(フープス・リンク・トーキョー)」というオープンイノベーションのスペースを持っています。そこにも、大企業のイノベーション担当者が来ていますが、悩んでいるわけですよ。「イノベーションをやれと言われたけれども、何をやればいいんでしょうかね」とか、「皆が(金融とテクノロジーの融合分野を示す)フィンテックをやれと言うけれども、何をしたらいいですか」とか。私は、こういう人を「イノベーション難民」と呼んでいます。
――イノベーション難民、ですか。
イノベーションと言われても、イノベーションとは何か、何をしたらいいか分からないという人のことです。そうではなくて、私たちがどんな方向性を目指すか、または世の中がこう変わってニーズがこうなるんだといった考えがあり、そこで私たちが果たすべき機能に必要なテクノロジーやイノベーションがあるはずです。だから、そうした視点で見ると、どういったモノやサービスを誰と作っていこうかとなると思います。
イノベーションは周囲にあります。それに気付き、イノベーションという言葉にとらわれずにいかに何かを改善しようと考えると、イノベーションは自然に出てくるもの。あまり大上段に構えて「イノベーションです!」と言うのはおかしいですよね。
例えば自動車を見ても、自動車がずっと変遷を続けてきた中で、今後燃料が変わったり、自動運転が出てきたりすると、古い自動車は誰も使わなくなるわけですよ。そうすると、代替需要が出てきます。
金融の世界でも、古い送金方法は皆が使わなくなり、もっと便利で(手数料が)安い方へと移っているわけです。それで(仮想通貨の基盤技術である)ブロックチェーンか何かが出てきた場合に、そのときに初めてイノベーションが出てきます。初めから、イノベーションを使って、もしくはブロックチェーンを使って何をしましょうかね、と考えているのではないと思うんです。そうしたものに、敏感に反応して自分のものにできる人たち、もしくはそうした発想の文化が大事になってきます。