つまり、ASDの人は、「人嫌い」というほど他人を積極的に嫌っているのでもないし、他人に不安や恐怖を感じているわけでもありません。むしろ、他人を気にしないし、視界に入っても特別な存在と認知しないのです。アイトラッカーの研究は、この点を実証したものとなっています。

 また、ASDの人は、自分が思ったことや本当のことを言いたい、という気持ちを抑えることができません。それが「相手の都合も顧みず、自分が思ったことを話し続ける」「唐突な発言をする」など、周囲に対する配慮の欠如として表れます。

 一方でADHDにも、衝動性の表れとして「思いついたことを言わずにいられない」傾向がありますが、ASDの人は「自分が話していい状況なのかを認識できていない」ことが原因で、同様な行動がみられるのです。

 その結果として、周囲から浮いてしまうことになりがちです。さらに、「空気が読めない」「わがままで身勝手」な人間として扱われることになりかねません。本人も、自分が「変わった」人間であると見られていることに気がつき、自分から距離を取り引きこもっていくケースもあります。

「うつの人に“がんばれ”と言ってはいけない」は正しい?

 最後に、発達障害との関連が高い「うつ」について。うつ病の人に接するときのマニュアルのようにして「がんばれと言ってはいけない」と覚えている人が多いようですが、必ずしもそうとはいえません。うつ病は、職場でもっとも多く見られる精神疾患です。また憂うつさ、不安、不眠といった症状は、誰もが少なからず経験しています。そのため、一見わかりやすい病気であり、そのせいで素人判断の危険にもさらされています。

 しかし、一口にうつ病といっても、その症状は多様です。日常生活に影響が少ない軽症なものもあれば、自殺のリスクが高かったり、食欲不振で栄養状態が悪化していたりと、入院が必要なほど重篤なものもあります。そうした状態に合わせたアドバイスやケアが必要となります。症状が重い時は、がんばるよりも、休養と治療が先決です。そのため、ただでさえ、がんばれない自分を責めている状態にある患者を、「がんばれ」という言葉がさらに追い詰めることになります。同じように「元気出して」「病は気からと言うし、気の持ちようだよ」といった言葉も、不適切です。