「お役にたつ」のが好き

――糸井さんが「経営」について岩田さんに聞いたとき返ってきた言葉というのは、今、糸井さんご自身が経営に携わっていて思い出されたりすることはありますか。

糸井 二つは今も覚えてますね。
 「自分たちは、なにが得意なのか。自分たちは、なにが苦手なのか。それをちゃんとわかって、自分たちの得意なことが活きるように、苦手なことが表面化しないような方向へ、組織を導くのが経営だと思います」というのが一つ。
 それとセットなのですが、「物事って、やったほうがいいことのほうが、実際にやれることより絶対多いんですよ。なので、オレたちはなにが得意なんだっけ、ということを自覚したうえで、“なには、なにより優先なのか”をはっきりさせること。順番をつけること。それが経営だと思います」と。
「それがすごく大事だっていう気がしますねえ」と、柔らかい感じで言ってました。

――岩田さんはプログラムと同じぐらい、経営もやってみると意外と得意だった、とおっしゃっていましたが、何がモチベーションになっておられたと思いますか。

「岩田さんは、『お役に立つ』のが好きだった」と糸井さん

糸井 “得意”だったのかなあ……「自分がやるしかないですね」という覚悟だったんじゃないかと思いますけどね。得意だったのはプログラムなのかなあ…とにかく彼は、「お役にたつ」のが好きなんです。そのためには「この順番でやると、できますよ!」と解を差し出す。経営も同じようなところがありますよね。
 これは(今回の本を構成した、ほぼ日取締役の)永田さんが、(岩田さんの盟友であり任天堂フェローの)宮本さんに聞いた話なのですが、「おかげさまで、はかどってます」と言われるのが、岩田さんはすごく好きだったそうです。小さいことでも、でっかいことでも、はかどることの役に立つことを喜びにしてた、と聞きました。
 岩田さんはさまざまな場でプレゼンをしてましたけど、少し芝居がかった感じで「みなさんに~」なんて話していたのは、きっと自分がやったほうがいい、宮本さんには開発に集中してほしいから、ってことだったんだろうな。アメリカで英語で発表している映像を見て、涙が出たことあるよ。

――ビジネス書を読むことは、糸井さんから、岩田さんに勧められたとか。

糸井 そうなんです。彼はHAL研究所が傾きかけたときに若くして社長になって、自分の頭で考えて経営をやってきたから、ビジネス書を読むきっかけとかなかったようなんですね。僕は、わりとビジネス書をおもしろく読んでいたので、いくつか勧めたら「これからは読みます」と。逆に、彼のほうが沢山読むようになっちゃって。たぶん、宮本さんなんかは、ちょっと迷惑したんじゃないかな。次々に、「これを読むといいですよ」と彼の机に置いていかれるようになったそうです。

岩田さんの思い出を「分け合いたい」

――この本をまとめる際にすごく力が入ったというか、読者にぜひここは読んでほしい、と思われるのはどこですか。

糸井 それは永田さんに直接聞いてもらったほうがいいね。

永田 岩田さんの言葉はもちろんですけど、宮本さんと糸井に、それぞれ岩田さんについて語ってもらったインタビューが、すごくいいんです。あれだけまとまった時間を使って、岩田さんのことだけ話せる場は、なかなかなかったと思うので。同じようなことを、二人がおっしゃっていたりするんです。

糸井 何の役にたつわけでもないけれど、岩田さんの話をしたいんだよね。秘書だった脇元さんとも話は一杯しているのだけど。「触れる」ことと同じですよね。

永田 本を出すことを発表したら、世界中からtwitterなどで「嬉しい」という反応が返ってきたりするのを見ると、みんな岩田さんの話をしたいんじゃないかなあという気がすごくしますね。この本を真ん中に置いて、岩田さんの話ができる。

糸井 自分一人で岩田さんを思い出すことはできるんだけど、「分け合いたい」感じなんです。あの人よかったよね、寂しいよね、という気分をみんなと分けあいたいんだなあ。「偲ぶ会」とかとは違うんだよね。一人対大勢じゃなくて、一人対岩田さんで集まりたい。
 じつはこっそり歌も作ったんだ、矢野顕子が歌っている。直接的なものじゃないけど、この歌で一緒の場所を作りたい、という思いで作った歌があるんですよね。

「Iwata-Sanキーホルダー」。ほぼ日ストア、もしくはTOBICHI(東京・京都)で購入した方のみ、1冊につき1個プレゼント(なくなり次第終了)。
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――「ほぼ日」ストアで買うともらえる、Iwata-Sanキーホルダーもかわいいですよね。

糸井 ほぼ日のメンバーはきっと、岩田さんが「あ、いいですね」と言って喜んでくれそうなことをやりたかったんでしょう。100%ORANGEさんのイラストもほどよいバランスでね。リアリズムで鉛筆書きだと公式ぽくなっちゃうけど、小さいころから大きくなるまでずっと「岩田さん」だった、やじろべえみたいな重心の取り方があるよね。

濱口秀司さんとの共通項は「楽しんでいる子ども」

――伺っていると、岩田さんはまさに唯一無二で、不世出の天才だったんだと、あらためて思わされます。

糸井 ほかにいないでしょうね。
 ただ似ているところがあるなあと思ったのは、ビジネスデザイナーの濱口秀司さんです。
 岩田さんが昔、おもむろにパソコンを取り出して、高年齢層が集まるコマ劇場に『脳トレ』を置いたら、ものすごくにぎわっている、という写真を見せてくれたことがあって。「ちょっと糸井さん、これ見てください!」と、嬉しそうに見せてくれたんですけど。濱口さんが先日の対談で、開発に加わったおむつ(ネピアWhito)を折りたたんでいるときの嬉しそうな顔とすごく似てたんですよ(笑)。

USBフラッシュメモリやイオンドライヤーのコンセプト開発などを手がけ、シリアル・イノベータ―の先駆けとして知られる濱口秀司さん

 ロジックを作って誰にでもできるものにして、「この魔法は誰でも使えるんです」と言って、いたずらっ子みたいに面白がっている。そのあたりが爽快だし、二人に共通しているのかなあと思いました。

――それは、濱口さんが一番喜びそうな話ですね。

 「役に立ちたい」とか「売ろう」というのは、仕事だから当然二人とも念頭に置いているだろうけど、結局のところは、近所の人に手品を見せてるような感覚なんじゃないか、と。二人とも、楽しんでいる子どものように、はつらつと生きている
 あとは、二人とも約束を守るし、義理人情に厚いですね。濱口さんのほうが、もっとシャイ度が高くて、引っ込むことをクセにしてますけど。岩田さんは社長になっちゃったから、それもできなくなったところはあるかな。
 それから、気は短いけど怒らない、というのもありますね。
 そうだ、最後に、二人とも「弟」気質なんです。凄みは二人のほうがあるのに、どうしても僕を「お兄さん」扱いしようとするんですよ。二人とも話し始めると長くて、6時間やそこらはゆうに話してます。
 岩田さんと濱口さんを会わせてみたかったな。クラブ活動とか二人でやったら盛り上がりそうなのにね(笑)。

――濱口さんにも、『岩田さん』の感想をぜひ聞いてみたいです。

 そうですね。多くの方にとって、仕事にももちろん役に立つと思うし、岩田さんの人となりに触れられる本です。この本のカバーに入れた「S.I.」はイニシャルですけど、イニシャルってすごくパーソナルな感じがしませんか。普通、サインするときはフルネームを書くし、イニシャルを書く場合ってあまりないから。そこも、内容と呼応したデザインでいいなと思ってます。……しかも、僕のイニシャルも「S.I.」なんだよ、後で気づいたんだけど!

――!!気づきませんでした。本当ですね。

 と、自分の話にもっていくのがうまいと言われてますよ、僕は(笑)。だから、というわけじゃないですが、ものすごく思い入れのある1冊ですし、ぜひ多くの方に読んでもらいたいなと思います。(談)