チラシは、居場所のアーティスト部門の当事者たちが作成。講演会当日も、スタッフの多くが当事者だったため、がくがく震えながら進行したという。

「ひきこもり学」をネーミングした佐藤さんは、「桂木さんが、いつも哲学などの学問的なことを考えていたので、『ひきこもり』とはどういうことなのか。広く社会の人たちに学んでもらいたい」と思ったという。まさに、当事者たちが発案して普及した、当事者が講師になって自由に思いや知見を社会に伝える「ひきこもり大学」の思想に似ている。

「自分も同じことをするのでは……」
今も当事者を悩ます川崎事件の衝撃

 当事者団体主催のイベントではあるが、参加者は一般の興味ある人や行政、当事者家族が多かった。最後まで立ち見して熱心に聞き入る議員の姿もあったという。

 当日、会場からは「心に響きました」「勇気をもらいました」といった反応が多かったものの、一方で「甘えるな」という発言もあった。しかし、他の参加者には「知りたい」「聞きたい」という切実な思いの当事者や家族が多く、「今は、そういう話ではないんだよ」と、会場内で「甘えるな」の発言者を諌めるシーンもあったという。

「事件後、私の元に来た相談の中にも『孤立しているから、自分もそんなことしてしまうのではないかと不安なんです』と悩んでいたので、『私たちとつながっている限りは絶対にないから。大丈夫』と伝えました」(佐藤さん)

 筆者のもとにも、孤立した人たちから「助けて」「恐い」「同じような仲間と出会いたい」といった相談は、今も続いている。同じ当事者仲間からの「大丈夫」の声がけは、きっと安心することだろう。

「私たちは、この居場所を1つの障害や特性にこだわらず、“ひきこもり”という大きなくくりの中に置きました。どうしたら前向きに生きていけるかをみんなで真剣に話し合って、大概は明るく終わっています」(佐藤さん)

 今回、舞台を設定してもらい、顔を出して講師を務めることを決めた桂木さんは、「負けたくなかった」と話す。

 桂木さんは高校2年のとき、引きこもった。中学時代、友人がいなくて浮いていたとき、身体の大きな同級生とその取り巻きに目を付けられ、集団で暴力的ないじめに遭ったときの傷も、間接的に影響しているのではと振り返る。