お客さまの感情を誤解していませんか?
ところが、クレーム対応はなかなかうまくいきません。前回お話ししたようなお客さまへのNG対応をしてしまうのは、その根底にクレームのお客さまに対する3つの大きな誤解があるからです。
よくあるNG対応をしないように、まずはお客さまへの認識を改めるための3つの大きな誤解を把握することが大事です。これらは、後々お話ししていく具体的なスキルを身につけるうえで大切なポイントになります。
お客さまへの3大誤解(1) こちらの話したとおりに伝わっている
多くの人は「誠意を込めて話せば、お客さまに伝わるに違いない」と考えがちです。しかし、残念ながら、みなさんが想像している以上に、こちらの言葉は相手には伝わらないものです。
ですから、お客さまの訴えを聴くにせよ、説明するにせよ、お互いの言葉の解釈にズレが生じていると、「わかっていない!」と失望感を抱かせることになります。それがさらなる「怒り」や「がっかり」した気持ちをもたらし、クレームの種になるのです。
「これだけ話したのだからわかってくれただろう」という思い込みは禁物です。お客さまの怒りがいくら説明しても収まらない場合は、お客さまの求める答えを、自分がつかみ切れてなくて、ピントのズレた説明をしているのではないかと疑ってみてください。
お客さまへの3大誤解(2) こちらの話が正論なら納得してくれる
いくらお店や会社、自分に理があっても、お客さまの困っている気持ちにそぐわなければ、納得してもらえません。病院でよくある出来事で見てみましょう。
「いつまで待たせるんだ! 俺より後に来た人が先に呼ばれているじゃないか!!」と、男性が受付で不機嫌そうに尋ねています。そこで、応対した事務の女性が「予約されている患者さんが先のご案内となりますので、もう少しお待ちください」とマニュアルどおりに答えたところ、「何時間待たされていると思ってるんだ!」と怒鳴り始めました。
この病院事務の女性は間違ったことは言っていません。でも、だからといって、言われた側の気持ちが収まるとは限らないのです。もしも先ほどのセリフの前に「申し訳ありません! 今日はどうされました? おつらいですよね」と、具合が悪くてつらい思いをしている男性の気持ちに寄り添ったひと言があったならどうだったでしょうか。
男性は不平を口にしつつも、自分の気持ちを理解してもらえたことで、怒りはトーンダウンしていたはずです。お客さまの怒りがお客さま自身の勘違いに端を発したものだったとしても、「正しい説明をしよう」と焦らないことです。
お客さまへの3大誤解(3) 納得してくれれば、引きさがってくれる
前述した3大誤解(2)の別パターンとして、多少気持ちにズレがあっても、「会社やあなたの立場はわかる」というように、一定の理解を得られることがあります。けれども、間違わないようにしたいのは、理解を得られたり、納得してもらったりしたからといって、素直に引き下がってくれるとは限らないことです。
「体重を落とさないと、将来病気になる。でも、食べたい」
「今日、この仕事を終わらせなければ、明日がきつくなる。でも、帰りたい」
このような、わかっちゃいるけどやめられない――。みなさんにもそういう経験があるのではないでしょうか。
論理的な思考、つまりは「人間の脳」が行動をコントロールしているイメージがあります。ところが、アメリカのポール・マクリーン博士が唱えた「三位一体脳」説によると、じつは行動のほとんどは「爬虫類の脳」と「動物の脳」が司っています。人は感情が動かなければ行動できないのです。
「こうしてほしい」「こうすべきだ」「理由はどうであれ無礼だ」「とにかく腹立たしい」――。そんな強い感情が渦巻いている間は、「あなたの言うことはわかった。でも……」と、“でも”のひと言で、すべて振り出しに戻されてしまうのです。ですから、正論を述べるよりも、相手の気持ちに寄り添い、怒りのボルテージを下げることを優先すべきなのです。
カギとなるのは論理的な説明ではなく、相手の感情に響くアプローチです。これからこの連載で詳しくご紹介していく「超共感法」はまさにそのためのスキルです。ですから、ときにはマニュアルは危険なツールになります。