クレーム対応の現場経験約20年のコンサルタントが、初めて乗り越えた悪質クレーマーとの攻防を振り返りながら、「クレーム対応でもっとも大切なこと」を語る。

30分以上、板の間に正座したまま……

「もう3日間、下痢が止まらん。鯖寿司を食ってからだ。どうしてくれるんだ!」
「申し訳ございません。弊社の商品が原因で体調を崩されたのであれば、治療費を負担させていただきますので、念のため事実関係を教えていただけないでしょうか?」
「俺がウソをついているとでも言いたいのか!」
「いえ、そのようなことは……」

 クレーマーの自宅を訪問した私は、口から絞り出すようにお詫びを繰り返すのが精一杯でした。目の前にいるのは、痩せぎすの老人ですが、酒臭い息と唾のしぶきを浴びせかけ、こちらの説明など一切聞き入れる気配はありません。私は30分以上も板の間に正座をしたまま、言葉に詰まっていました。

 しばらく膠着状態が続いたあと、老人の怒声が沈黙を破りました。
「おまえみたいなつまらない人間は、死んでしまえ」

 伏し目がちに老人の顔を見ると、目が吊り上がり、こめかみに血管が浮き出ています。
〈これはヤバい!〉

 こう思った瞬間、いきなり額を小突かれました。

 これは、私が警察から民間流通業に転職して間もない頃の出来事ですが、いまでもそのときの情景ははっきりと覚えています。それは、私がこの一件を契機に渉外担当者として一皮むけたからです。