人間にできることは、
「適応」することだけ

――「川の流れに身をまかせる」というのは、自分に与えられた運命に逆らわない、という運命論な考え方なのですか?

出口:運命論というよりも、ダーウィンの進化論です。僕の世界観、人生観におそらく一番影響を与えたのは、ダーウィンです。
ダーウィンの進化論をひと言で説明すると、「運と適応」です。運というのは、適当な時期に適当な場所にいることです。
「世の中は何が起きるかわからないのだから、そのときに適応したら生き残るし、適応できなかったら滅んでしまう」というのがダーウィンの基本的な考え方です。

「人間は、周囲の状況の変化に合わせた適応しかできない」という考え方は、ストア派にも近いと思います。

――ストア派というのは?

出口:ヘレニズム哲学の一学派です。ストア派の哲学者たちは、「自然の理法は、大河の流れのように、世界をつくり続けて過去から未来へと時間をつなげていく。その悠久の流れの中で我々は生まれてきたのだから、そのように与えられた人生を堂々と生きればよい」と述べています。
自然の理法に従って、今の自分に生まれたのであるから、その定めを真正面から受け止めて積極的に生きることを説いているんです。「与えられた人生を生きる」という視点は、ダーウィンと同じですね。

出口治明が、
これからやってみたいこと

――出口学長がやりたかったこと、これからやってみたいことはありませんか?

出口:APUをよりよくしたいことのほかには、まだ、やりたいことがよくわからないのです(笑)。

――71歳になっても、まだやりたいことがわからないのですか?

出口:「還暦でベンチャー企業をつくって、古希で大学の学長をやって、次は何をやりたいのですか?」と質問をいただくのですが、いつも「ありません」と答えています(笑)。
今はAPUの学長をやっているので、「APUをもっといい大学にしたい」「学生も教職員もワクワクドキドキできる大学をつくりたい」と思う以外に考えたことはないのです。

やりたいことがある人は、それに向かってチャレンジをすればいい。けれど、僕のように適性ややりたいことがわからない人は、川の流れに身をまかせ、今いるところで一所懸命やってみたらいい。将来、何が起きるかわからないほうが、人生は楽しいと思います。