グーグルの若き天才研究者、クオーク・リーも、これと同様の思考をしている。少年時代のリーは、人が初めて月に立った写真を見た際に、こんな問いを抱いた。「なぜ月に到達した生物が人間だったのか?」そこから「人間には知性があるから」という結論を導き出し、知性をもったロボットを創って人類に貢献したいと思うようになった。

 のちにスタンフォード大学の博士課程に進学したリーは、「ホッチキスをとってほしい」という指示に応えてくれるロボットを開発した。開発で何が一番難しいのかを突き詰めた結果、「いかに機械に物体を認識させるか」というパターン認識の問いにぶつかった。その際に役立ったのが、「知性とは何か?」という大きな視点と、「物体認識」という小さなディテールだ。両者を高速で行き来することで、ディープ・ラーニングの実用化という新しい地平を切り開くことになったのである。

◇偉大な研究者の共通点

 1993年、「第一線で長きにわたり活躍できる研究者はどのような働き方をしているか」という論文が発表された。その共通点とは、45歳までに5本以上の傑出した論文を書いていること。そして、平均して5回は大胆に研究分野を変えていることだという。

 研究者というと専門に固執するイメージがあるため、2つ目の特徴は特に興味深い。はたから見れば研究分野を変えているように見えても、研究者当人からすると、自然な流れなのではないか。そう著者は分析する。研究分野を変えることは、一見非効率的でも、結果として思いがけぬ形で実を結び、長きにわたる活躍につながるのかもしれない。

◆どこから考え始めるか
◇一流プレイヤーの堅牢な強さのもとになるもの

 一流と呼ばれる人は、プリミティブな問いを立てる傾向にある。日本人初のプロゲーマーである梅原大吾さんは、「うまさとは何か?」、為末大さんは、「足が速いとはどういうことか?」といった具合だ。あまりにも本質的な問いを立てるため、周囲は「そこまで考えるのか」と驚く。だが、本人たちにとっては、「そこから考え始める」という感覚の方が近いのではないか。その証拠に、彼らは「○○とは何か?」と問いかけることが多い。

 ゲームやスポーツでは、強い人のプレーを真似すれば、効率よく上達できる。しかし梅原さんは、自分の礎を築く前に身につけた強さは本物の強さではないという。遠回りでも、自分と向き合い、試行錯誤しながら本質から積み上げていく。それこそが、結果的には堅牢な強さになると考えているのだ。