ところが手取りベースでみると、額面と同じようには増えない。図1にある通り、手取りは約201万円から約273万円になるので金額にして約72万円増。このケースでの増加率は、約36%アップに過ぎない。

 5年間の繰り下げ効果は、額面では42%増なのに、手取りでは同じ率だけ増えないのはなぜか。それは、年金額が増えると、税金と社会保険料の負担が増えるからだ。このケースでは所得税の税率は変わらないので、国民健康保険料と介護保険料の負担率アップが手取りを押し下げる主要因となる。

 繰り下げない場合、国民健康保険料と介護保険料の合計額は約26万円であるが、繰り下げると約37万円になる。年金生活者には結構な負担となる。

 また、繰り下げ期間中は年金を受け取れないため、その後、何年間年金を受け取れるか、つまり何歳まで生きるかによって、受給開始を遅らせたことが「トク」だったのか「ソン」だったのかが変わってくる。

 何歳を超えると繰り下げしなかったときより「トク」になるかという「損益分岐年齢」の考え方がある。例えば5年繰り下げ、70歳から受け取ると、額面上の損益分岐年齢は81歳10ヵ月だ。

 しかし、税金や社会保険料を考慮した「手取りベース」で私が試算したところ、損益分岐年齢は87歳。額面の損益分岐年齢とは大きな開きがあることを知っておきたい。

 65歳から年金を受け取らずに繰り下げると、その間は最低年120万円ある「公的年金等控除額」という非課税枠が使えない。これは大変もったいないこと。手取りアップを実現するには、非課税枠の使い残しは避けなくてはいけないのが鉄則なのである。

年金収入が高くなるほど、
手取り率は低下する!

 図2は、年金収入に対する手取り額、手取り率、税金や社会保険料負担を試算したものだ。こうして並べてみると、年金収入が多くなるほど、手取り率が減少していくのがわかる。

 表に記載の年金収入は、公的年金と企業年金(もしくは退職金の分割受け取り、DCの年金受け取り)の合計額である。38年間会社員だった人の公的年金のモデル収入は、約200万円前後(老齢厚生年金と基礎年金の合計)。現役時代にかなり高収入だった期間が長い人でも240万円前後なので、公的年金だけで300万円を超えることはほとんどない。なので、250万円超の部分は、企業年金等を受け取っている人のケースとして見てほしい。