有人宇宙船か、無人衛星か
最速で意思決定を下すためにやったこと

 ひとつ例を挙げる。創業1年目のときのことだ。

 私はスペースデブリの捕獲技術を考えるにあたり、無人の衛星が捕獲すべきか、宇宙飛行士が有人で捕獲すべきか悩んでいた。宇宙業界の人ならば、すぐに「無人の衛星だ」と思うはずだ。しかし、宇宙業界の外から来た私は、無人より有人のほうがよいと思っていた。宇宙に、宇宙飛行士をたくさん連れて行って、スペースデブリを手で捕まえるほうがよいと。

 これには、合理性があった。

 物体の捕獲には、目と頭脳と手が必要である。人間はすべて持っている。無人で捕獲するには、目に変わる新たなセンサー群と、高性能なプロセッサと、ロボットアームが必要であり、大きな技術開発を必要とする。しかも、宇宙でデブリを捕まえたいという宇宙飛行士候補生が私のまわりにたくさんいた。

 だから、あとは、有人宇宙船をつくればいいと思っていた。ならばそのコストを知ればいい。

 有人宇宙船をつくれる会社は世界でも3、4社しかない。私はアメリカに飛んで、そのうちの1社を訪問した。諸条件を伝えて、見積もりをお願いした。

「本気か? おまえ、お金はあるのか?」
「見積もり出すのですら、エンジニアを数人使っても2、3か月はかかるぞ」

 と散々な言われようであった。私は「今」答えが欲しかった。そして欲しかったのは、詳細な金額ではない。桁感だ。10億円なのか、100億円なのか、1000億円なのか。

「本当に概算になるが……」と金額を教えてもらった。その額は今でも忘れられない。目が飛び出るほど高かった。それを一次情報として手に入れて、無人でやったほうが圧倒的に安いという判断に至った。

 この判断は、現場に飛んで、一次情報を得たからこそ、迅速に下せた。もしぐずぐずと考えつづけていたら、多くの時間を浪費しただけでなく、二次情報に惑わされ、誤った結論にたどり着いていたかもしれない。

 加えて、大手宇宙企業に見積もりを頼む際にはどのレベルまで要件を伝えるべきか、どれくらい時間がかかるか、の肌感覚も手に入れられたうえに、工場見学もできたので、この訪問はとても有意義なものとなった。