不正告発者が守られない日本
5ちゃんねるでコッソリ告発も

「応募者はそうした数値で判断されることもわかっている。だから、著名な雑誌に掲載されようと努力するし、あと一歩で良い雑誌に載りそうなときは、『少しくらいデータを調整しても』という発想につながっていくのです」

 最近は、研究者個人の論文数、論文が引用される数、獲得研究費などがスコア化されランキングされるという。度々話題になる世界大学ランキングにおいても、所属教授や研究員の論文数は重要な基準とされ、政府はその100位以内に日本の大学が多くランクインするよう躍起になっている。そうした「スコア化とランキング偏重文化が諸悪の根源である」と有田氏は言う。ランキング偏重文化の理由はなにか。

「スマホやSNSに端的に表れていますが、世界全体が手っ取り早く物事を処理し、反射的な満足感を得たがる風潮に移行しています。相対的に、考える時間をみんなが減らしたがっている。ランキングという指標はこうした時代の要求に合った、わかりやすくて都合が良いものなのです。また、数字で示されることが科学であるという誤解も世の中に蔓延しています。結果として、世界の大学ランキングや科学研究費の獲得ランキングなどが公開され、そのランクばかりを気にしてしまうのです」

 こうしたランキング文化のほかに、日本独特の構造的な問題も不正の多さに影響している。

 有田氏によると、海外では内容の誤っている論文を指摘する論文が多いという。要するに研究者が実名をさらして、正規ルートで堂々と議論できる文化があるのだ。しかし、日本にそうした伝統はない。また正規ルートでの内部告発も少ない。わが国において疑義の提起はタブー視され、論文不正の告発は5ちゃんねる等の匿名サイトで行われることが多いのだ。

「一般的に研究室のトップには教授がいて、その下に部下ともいえる研究者がいる。日本では、儒教的に年長者を敬う意識が強いですから、仮に教授や先輩研究者が不正を犯していても告発できない空気になっています。また、直接不正の指示はなくとも『もっといいデータを出せないのか』と言われれば、そこに忖度が発生するでしょう。従わなければ将来が閉ざされるように感じる。ここが欧米と日本の大きな違いです。告発側が守られていないのです」