大企業の情報化投資計画の前年度比伸び率(2019年度)
海外経済の先行き不透明感が強まる中でも、日本経済は緩やかな回復が続いている。8月上旬に公表された4~6月期の実質GDP(一次速報)は、3四半期連続のプラス成長となった。輸出が減少したものの、プラス成長を実現できているのは、内需、とりわけ企業の設備投資が堅調なためである。
足元の設備投資を見ると、企業がシステム構築やソフトウエアなどの情報化投資を活発化させている姿が見て取れる。実際、日本政策投資銀行の設備投資計画調査によると、2019年度の大企業の情報化投資は前年度比プラス35.4%と、当年度の投資計画としては、同項目の調査を開始した2000年度以降で、最も高い伸びとなった。企業が情報化投資を活発化させている背景には、人手不足の深刻化と働き方改革がある。4月に働き方改革関連法が施行されたことで、企業は人手不足対応だけでなく長時間労働の是正にも取り組むことが必要になった。
こうした中、企業は省力化・合理化を進めるため、情報化投資を加速させている。具体的には、小売業では無人レジの導入やそれに伴う店舗運営システムの刷新、金融業ではRPAによる事務作業の自動化、製造業ではIoTによる製造ラインの自動化に向けた投資が目立っている。
人口が減少する中、今後、人手不足は一段と深刻になる。企業にとっては、デジタライゼーションによる生産性の向上が急務であり、情報化投資の加速は、日本経済の持続的な成長において前向きな動きといえるだろう。
もっとも、日本企業のデジタライゼーションは、他の先進国に比べて取り組みが遅いとの指摘もある。とりわけ、中小企業で情報化投資が進んでいない。
実際、中小企業の従業員1人当たりのソフトウエアの固定資産額(資本装備率)は、大企業の10分の1にとどまる。中小企業単独では、資金面や人材面で投資のハードルが高いことも事実であり、政府も、複数企業の共同によるシステム構築の促進やIT人材の供給などを通じ、中小企業の情報化投資を後押ししていく必要がある。
(日本総合研究所副主任研究員 村瀬拓人)