日本のサイバーセキュリティー関係者の中には、中国を問題にする前に米国の通信監視システムのPRISMや、テロ監視を目的に通信傍受などを許す米国愛国者法を懸念すべき、と言う人もいます。デジタルテクノロジーを利用した国家の覇権争いは各国で鏡写しになっており、相手がやっていること=自分もやっていることという状況があります。デジタルテクノロジーの荒野には、どこかに正義の味方がいるわけではないのです。

 デジタルテクノロジーを巡る国家と非国家アクターの攻防は、激しさを増す一方です。そこには今まで国家が独占していた領域にデジタルプラットフォーマーなどが侵食してくるのを恐れる国家の姿がありました。激突する米中貿易戦争の背景には、一党独裁下の経済成長に自信を深める中国と、リベラルな民主主義から離れ保護主義に走る米国の姿があります。

 経済的に深く相互依存した米中が、貿易摩擦の帰結として二極化し、「テクノロジーのカーテン」が生まれるとは考えにくいのですが、テクノロジーによる安全保障問題を内包した対立はまだ続くことでしょう。日本は米国の同盟相手であると同時に、経済的・地理的に中国に近い国です。世界第3位の経済規模を持つ国として、デジタルテクノロジーを理解し、未来を見据えてポジションを取る戦略が重要です。

 日本と日本企業は、デジタルテクノロジーと各国の動きを統合的に理解し、「ゲームのルールを分かっていなかった」ということがないようにすべきです。振り返ればあのときが転機だったとされるだろう現在において、国家間の法の支配を第一義に、ルールメーキングをする側に日本の政府と企業が立てることを願ってやみません。

(本稿は筆者の個人的見解であり、所属する組織・団体の公式見解ではないことをご了承ください)