運転士の判断に
こだわる京急

 踏切遮断機の動作は、前述の省令の解釈基準で「警報の開始から遮断完了まで10秒以上であること(15秒を標準とする)」また「遮断完了から列車の到達まで15秒以上であること(20秒を標準とする)」とされている。京急電鉄によれば、当該の神奈川新町1号踏切も警報機の鳴動から遮断まで20秒、遮断が完了してから最低15秒後に列車が通過する設定になっているという。

 このとき、踏切の何メートル手前に列車がいるのかは、状況によって異なる。京急は「踏切警報時間制御装置」により、列車種類ごとに踏切の動作タイミングを変えて、遮断時間が必要以上に長くならないように制御しており、当該区間を時速120キロで通過する快特列車の場合は、おおむね踏切の1キロ手前に到達した段階で踏切の鳴動が開始されるという。

 京急の障害物検知装置は踏切の鳴動開始時点から作動し、障害物を検知した場合、線路上の「特殊信号発光機」が点灯する。特殊信号発光機は、最高速度で走行している場合でも踏切の手前に停止することができるよう、少なくとも600メートル手前から視認できる位置に設置されている。

 京急に確認したところ、規定では特殊信号を確認した運転士は直ちにブレーキを操作すると定められているそうだ。ただ、どのようなブレーキを扱うかは運転士の判断に任されており、踏切まで距離に余裕があれば、踏切手前に停止できるよう通常のブレーキで減速して接近することもあるし、踏切の直前(止まり切れないような位置)であれば非常ブレーキを使用する(今回の事故では、運転士は特殊信号を確認して非常ブレーキを操作したが間に合わなかったと証言している)。

 しかし、人間の注意力に頼った安全対策に限界があることは、鉄道事故の歴史が示している通りだ。例えば東武鉄道は1960年代に障害物検知装置とATS(自動列車停止装置)の連動化に着手し、検知装置作動時にATSが作動し、列車を自動的に停止させるシステムを導入している。背景には当時、東武線で重大な踏切事故が相次いだという苦い教訓があった。

 一方で課題もあった。朝ラッシュなど「開かずの踏切」になる時間帯は、踏切の「直前横断」がしばしば発生する。障害物検知装置が「過敏」すぎると、感知するたびにATSが作動して、ダイヤを乱してしまうのだ。自動的に非常ブレーキをかけるのではなく、運転士の判断を介在させるのは、鉄道事業者の「苦肉の策」でもあったわけだ。

 そこで近年は、東急電鉄や小田急電鉄、京王電鉄などが、列車の速度を連続的に制御可能な新型ATSやATC(列車自動制御装置)を活用し、運転士のバックアップと安定運行を両立させたシステムの導入を進めている。これは検知装置が作動した際に、列車に搭載されたATSやATCが、踏切の手前に停止できる減速パターンを作成し、列車の走行速度がパターンを超えた場合に自動的にブレーキをかける仕組みで、支障検知が解消されたらブレーキは解除される。

 京急はこうしたシステムを導入しておらず、前述のように運転士の注意力と判断力に頼って安全確保を行っている。京急は、ATSで自動的に停止させると「かえって乗客に危険が及ぶ場所に停止する可能性がある」ため運転士の判断で停止させていると説明するが、障害物検知装置の本来の役割を踏まえれば、支障中の踏切以上に危険な場所はないはずだ。副次的な問題は別の手段で解決すべき事項であり、説得力に欠くと言わざるを得ない。