以前からトランプ氏は側近に、「もしジョン(ボルトン)の言う通りにしていたら、今ごろ米国は4つの戦争を抱えていたところだ」と漏らしたという。

 2019年1月1日に辞職した前国防長官ジェームズ・マティス海兵大将は、ボルトン氏を「悪魔の化身」と評したこともある。歴戦の智将にとっては、戦争を知らない超タカ派の外交官は腹立たしい限りだったろう。

 ボルトン氏を切り捨てたことは、トランプ政権が北朝鮮、イランに対する先制攻撃を行わず、ベネズエラへの介入を避け、アフガニスタンの和平交渉を進展させる方向にかじを切りつつある兆候と思われる。

 今後それらの交渉や和解がうまくいくか否かは予断を許さないが、戦争の危険が若干なりとも減じたとはいえよう。

 米国の大統領は第1期の辞任直後には強硬論を唱えるが、事情を知った第2期には穏健になった例が多い。トランプ氏も就任後、約2年8ヵ月で学習したことも少なくはないのだろう。

 もちろんトランプ氏には任命責任がある。

 ボルトン氏の前任者、ハーバート・R・マクマスター陸軍中将は湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争で功績を挙げ、実直な性格で軍事史の博士号も得た智将だったが、大統領に状況を説明してもなかなか理解してもらえず、その苦労を周囲に漏らすうち、馬鹿にしたような言辞もあって更迭された。

 その後任につとに超タカ派で知られていたボルトン氏を据えたのは、乱暴な人選だった。

 彼は名門イェール大学を最優等の成績で卒業した法学博士だが、高校生の時代から共和党タカ派で公民権法(人種差別禁止)に反対したバリー・ゴールドウォーター上院議員を支持、1964年の大統領選挙を手伝ったが、ゴールドウォーター候補は惨敗した。

 司法省など官界に勤務したのち、ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領により国務次官(安全保障担当)に任じられ、イラク攻撃を推進した。

「ネオ・コン(新保守派)」の1人といわれるが、本人は「私はずっと以前からの保守派。ネオ・コンではない」と強調した。筋金入りのタカ派だ。