2017年度の高校中退率
2010年度に始まった高校無償化制度。所得制限が設けられるようになったりといった制度の変更も行われたものの、作られてからおよそ10年がたつ。そろそろ、この政策介入に対する効果が測定されてもいい頃だろう。経済的理由によって高校進学を諦めたり、高校を中退しなければいけない人々を減らすために導入された政策なので、高校進学率や高校中退率が一体どのように変化してきているかを見てみよう。
「学校基本調査」によれば2000年代に入ってからの通信制高校を含む高校進学率は98%でほぼ一定になっている。進学率への影響はほぼないといってもよいだろう。
片や中退率は「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」を見てみると、制度導入前の05年度から08年度にかけて2.2%前後だったものが、制度導入直前の09年度には1.7%、制度が導入された10年度には1.6%に減少し、その後はほぼその水準を保っていた。13年度に統計の範囲に通信制課程も含まれるようになって完全な接続性は失われたものの、中退率は下がり続け、17年度の中退率は1.3%である。中退率に関しては高校無償化が行われる少し前から下がっているため、高校無償化の効果があったかどうかの判断は難しいところだ。
高校中退者も含めた最終学歴が中卒であるものを取り巻く労働市場の環境は厳しい。国勢調査を使って45歳の男性を見てみると、1990年に95%であった就業率は10年には78%まで低下している。製造業や建設業の縮小などさまざまな構造的な要因が背後にあると考えられる。この数字を見る限り、高校中退を防ぐことは就業率の低下を防ぐために有益であるように思える。
高校無償化が長期的な高校中退率の低下にどの程度貢献しているのか、高校中退の発生を防ぐことでその後の就業の可能性をどの程度上げることができるのか、実をいうと分かっていないことは多い。これらの政策評価を行うべき時期に差し掛かっているといえるのではないだろうか。
(東京大学公共政策大学院教授 川口大司)