なぜ「現役世代が負担」という
年金制度が良いのか
先頃、公的年金の財政検証が発表になったが、年金について多くの人が誤解していることがある。それは、年金を老後の生活をまかなうための貯蓄だと思っていることだ。
ところが、年金は貯蓄ではなく、保険なのだ。保険というのは万が一に備えるものである。生命保険なら、自分が死んだ後、残された家族の生活が破綻しないように、自動車保険であれば、人身事故が起こっても巨額の賠償金を負担しなくても済むようにするためにある。
では、年金を保険とした場合の「万が一」というのはどういう場合なのかと言えば、それは万が一長生きした時のためにあるのだ。長生きするのは良いことだが、それによって自分の蓄えが底をついてしまっては大変だ。したがって年金は終身、すなわち死ぬまで支給される保険金と言ってもよいのだ。
公的年金は「賦課方式」といって、働いている現役世代が保険料を負担し、年金受給者に年金を支給する仕組みだ。ところが、これだと少子高齢化に対応できないということで「積み立て方式」に変えるべきだ、という意見もある。「積み立て方式」というのは自分の年金分は自分で積み立てていって将来受け取るという方式なので、これなら保険ではなく貯蓄ということになる。一見、この方が良いように思えるのだが、実はこのやり方だと大きな問題がある。
まず、自分の寿命はいつまでかということは、誰にもわからないということだ。したがって予想以上に長生きしてしまうと、積み立てた分だけでは足りなくなる場合が出てくる可能性がある。仮に平均寿命までの分を積み立てたとしよう。平均寿命ということはおよそ2人に1人はその年齢まで生きるということだが、逆に言えば半数の人は資金が底を突くということになってしまう。さらに100歳まで生きるという前提で積み立てたとしても、もし101歳まで生きたら最後の1年はとても悲惨な生活が待っていることになる。
ところが賦課方式の場合、「現役世代」対「引退世代」の比率に変化はあるから受け取る年金額に増減はあるものの、社会が消滅しない限りは、受け取る年金がなくなってしまうということはない。
また、貯蓄であれば、将来物価が上昇すると目減りする可能性も出てくる。そうならないようにするためには、ある程度積み立てたお金を運用する必要があるが、そうすると運用がうまくいかない場合、積立金が減って年金支給に支障をきたす、ということも起こってくる。
ところが賦課方式であれば、保険料は賃金の額に応じて決めるので、物価や賃金が上がってもある程度はスライドして年金支給額も同じように増えていく。そもそも運用などという不確実なものに将来の年金受け取りを委ねなくても、その時代の現役世代の給料の中から支払うことによって安定的に支給を続けることができる。つまり「貯蓄」である積み立て方式よりも「保険」である賦課方式の方が、年金全体としてはずっと安定度が高いのだ。