直接原価計算は、経営者のための原価計算

 「全部原価計算は、税務署に提出するための原価計算の方法です。普段、皆さんが目にしているものですね」

 (ということは、千葉精密も全部原価計算で計算しているってことね……)

 早苗は、千葉精密の決算書を思い浮かべていた。

 「実は、原価計算にはもう一つのやり方があります! 経営者のための原価計算である『直接原価計算』です!」
 (経営者のための原価計算?)

 川上の説明が続く。

 「直接原価計算(Direct Costing)」は、略してDCと呼ばれる管理会計の一つだ。全部原価計算(FC)と直接原価計算(DC)の違いは、原価の集計範囲だという。

 FCが材料費、労務費、経費のすべての原価要素を集計するのに対して、DCは原価を変動費と固定費に区分して、変動費のみを原価計算の対象とするのだ。

 変動費とは、生産数量または販売数量に比例して発生する費用である。マネジメントゲームの中では、材料費、投入費、完成費が該当する。

 一方で、固定費とは生産数量または販売数量にかかわらず発生する費用である。工場で発生する労務費や経費は、生産数量の多寡にかかわらず一定額を発生する性質を持つ『製造固定費』だ(下図表)。

原価計算は2つある!?
 「DCでは変動費だけを原価計算の対象とします。まぁ、やってみればFCとDCの違いが分かると思うので、まずは計算してみましょう!」

 早苗たちは、川上の指示に従って、DCでの計算を行った。DCでも直接費に該当する材料費、投入費、完成費については原価計算の対象とする。計算のやり方自体に大きな違いはない。

 唯一の違いは、原価計算の対象とならなかった労務費と経費だ。

 P/Lの固定費として70円全額が費用計上されていた。DCに基づくP/Lの結果、変動費84円、固定費120円、損失は▲24円、と赤字となってしまった(下図表のP/L)。

原価計算は2つある!?

DCによる決算書を完成したところで、昼休みとなった。

相馬裕晃(そうま・ひろあき)
監査法人アヴァンティア パートナー、公認会計士

1979年千葉県船橋市生まれ。
2004年に公認会計士試験合格後、㈱東京リーガルマインド(LEC)、太陽ASG 監査法人(現太陽有限責任監査法人)を経て、2008年に監査法人アヴァンティア設立時に入所。2016年にパートナーに就任し、現在に至る。
会計監査に加えて、経営体験型のセミナー(マネジメントゲーム、TOC)やファシリテーション型コンサルティングなど、会計+αのユニークなサービスを企画・立案し、顧客企業の経営改善やイノベーション支援に携わっている。年商500億円の製造業の営業キャッシュ・フローを1年間で50億円改善させるなど、社員のやる気を引き出して、成果(儲け)を出すことを得意としている。
著書に『事業性評価実践講座ーー銀行員のためのMQ会計×TOC』(中央経済社)がある。MQ会計を日本中に広めてビジネスの共通言語にする「会計維新」を使命として、公認会計士の仲間と「会援隊」を立ち上げ活動中。