菅義偉官房長官が「携帯電話料金は4割引き下げる余地がある」と発言し、携帯電話の値下げ問題に火が付いた。総務省は法律改正にまで踏み込んで大手キャリア3社に対応を迫ったが、肝心の料金競争は不発。だが、対立は第2幕に入った。特集「携帯激震!総務省vsキャリア3社」(全5回)の第1回は、その軌跡を追う。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
「法改正」の裏の狙いは
米アップルへの通信料流出を断つこと
10月最初の週末。東京都内の家電量販店の携帯電話売り場は落ち着きを取り戻していた。9月30日の夕方まで、「iPhone8」を1円で販売するキャンペーンが展開され、それを目当てに長い行列ができて売り場は多忙を極めたのだったが、10月1日を境に熱狂は静まったのだ。
顧客が店舗を訪れても成約にはなかなか結び付かない。何しろ先週まで1円だったiPhoneが、月をまたいだだけで7万円台に跳ね上がっていたからだ。
売り場の店員は「2万円なら値引きできますが、それ以上はできません。本当です。10月から法律が変わって値引きできなくなったのです」と申し訳なさそうな表情で、追加値下げの交渉を拒否した。10月に入って1円端末は本当に消滅したようだ。
政府は10月1日、携帯電話の値下げを促す改正電気通信事業法を施行した。その目玉は、携帯電話の「通信料金と端末代金の完全分離」で、総務省はセット販売時のスマートフォンの割引を「2万円」までに制限した。
総務省のある幹部は「完全分離は米アップルへの資金の流れを断ち切るためにある」と裏の狙いを明かす。改正法施行前は、通信料と端末代のセット販売が行われてきた。このとき通信料から毎月何千円もの支払いがアップルに流れていたことを指摘する。
最新の高機能スマホを必要としないユーザーにまで大量にiPhoneが行き渡ったのも、高い通信料から値引き原資が出ていたためだ。
同幹部は「アップルはiPhoneを定価販売している一方で、日本の携帯キャリアが値引きの原資を出して料金の回収までしていた。こんな搾取は断ち切った方がいい」と吐き捨てるように語った。
完全分離の表向きの理由は、端末代の割引を制限して、大手キャリアに通信料の値下げを促すことだ。その裏で、通信料からアップルに流れるお金を断ち切り、通信料の値下げにつなげることをもくろむ。
では、通信料は下がったのか。