利益剰余金は瞬間蒸発
だが、配当という観点で見たら、そんなことを言っていられない苦境も、一方で浮かび上がる。
というのも、会社法上、株主に対する配当は、単体で原資となる分配可能額(配当可能利益)を確保しておかなければならないためだ。日本郵政の場合(19年3月末期)、配当に回せるのは、まず一義的な原資としての利益剰余金が7685億円だ。強制減損に追い込まれれば、この利益剰余金は“瞬間蒸発”してしまい、年間の配当総額約2000億円の原資は枯渇する。もちろん、会社法上は、「その他資本剰余金」を配当に回すことも可能だ。日本郵政のその金額は3兆6300億円に達するため、資本金や資本準備金の取り崩しに頼らずとも配当に回すことができる。
しかし、「配当は一義的には利益剰余金から出すべき。資本剰余金から出すときはやむにやまれない場合だけ」(大手銀行のCFO〈最高財務責任者〉経験者)とされる中で、日本郵政が資本剰余金から配当を捻出するとなれば、将来の配当の「確からしさ」に疑念が生じかねない。
さらに、日本郵政の株主にとってみると、税務上の手続きが煩雑になる可能性もある。通常の利益剰余金からの配当であれば「配当所得」として源泉徴収されるが、資本剰余金からの配当の場合は、資本の払い戻しとなり、「譲渡所得」の扱いになる。株主は自分で損益を計算して確定申告をするのが原則となる。税務上の取り扱いが異なるだけでなく、日本郵政株式の取得価額の調整も必要になる。
実際、昨年には資本剰余金からの配当について、投資家の確定申告などが適切に処理されなかったケースが発生し、日本証券業協会が上場企業に注意喚起したこともある。
これまでの2回の売り出しで、財務省や引き受け証券会社はもっぱら個人投資家を念頭に販売戦略を練ってきた。その結果、日本郵政の株主構成は、政府に次いで大きいのがシェア21%を占める個人だ。その数は61万人を超える。
配当の「確からしさ」に疑念が生じ、加えて、通常の株式配当とは異なる税務上の取り扱いとなって煩わしさが生じる――。証券会社からは「個人株主が果たしてそんな面倒な手続きを受け入れるだろうか」(証券会社役員)との声も漏れる。そうした株式となったら、個人投資家に背を向けられてしまわないか。