顧客からの苦情件数が増え続けている、銀行による外貨建て保険販売。商品を供給している生命保険業界は、対策として販売資格制度の創設に動きだしたが、銀行業界の反発は想像以上に大きく、水面下で激しい神経戦が繰り広げられている。(ダイヤモンド編集部 中村正毅)
Q 生命保険業界が外貨建て保険に関して、販売資格制度を設けようと動いていると聞きました。なぜ今、そうした動きになっているのか経緯や背景について教えてください。
A 経緯をたどっていくと、2年近く前の2017年末までさかのぼります。当時は、銀行窓口での保険販売が全面解禁されてから10年という節目の年でした。
そのため、消費者庁が所管する国民生活センターが窓販の状況について改めて調査・集計したところ、足元の数年間で顧客からの相談・苦情件数がじわりと増加している実態が浮かび上がりました。
さらに内容を詳しく見ていくと、高齢者を中心に外貨建て保険に関する苦情が目立っていたのです。
Q 外貨建て保険への苦情が、銀行窓販で急に目立つようになったのは、一体なぜなのでしょうか。
A それは、16年に日本銀行が打ち出したマイナス金利政策が大きく影響しています。
それ以降、市場では金利が低い状態が続いており、銀行は企業への融資や運用で利益を出しにくい構造不況に陥っていきました。
本業で思うように稼げない銀行は、おのずと販売手数料収入(役務収益)の拡大に目を向けるようになり、投資信託や外貨建て保険の販売に注力し始めます。
Q 投資信託も同じような状況だったのですね。
A そうですね。ただ、主に債券などで運用する投資信託は、低金利の状況で成績が振るわず、銀行窓販はやや苦戦していました。
一方で、外貨建て保険は一時払い(一括払い)を中心に、急速に販売を伸ばしていきました。
手持ちの円をドルなどの外貨に振り替え、為替リスクを取っているため、円建ての貯蓄性(投資性)保険に比べて利回りが高いように見えるという要因もありますが、販売が伸びた最たる理由は相続対策です。
Q どういうことでしょうか。
A 生命保険金には相続時に、「500万円×法定相続人の数」という非課税限度枠があります。法定相続人が2人いれば、1000万円が非課税になります。
そのため、「相続時の節税対策にもなりますよ」「ドルなどの外貨建てなら、ある程度の利回りが期待できますよ」「外貨預金を保険に切り替えましょう」という銀行員のセールストークが、高齢の顧客に刺さったわけです。
ある銀行では外貨建て保険を販売した顧客のうち、6割が70歳以上という状況でした。
Q 銀行窓販で高齢者の苦情が多いのは、そういう理由があったのですね。
A そうですね。そうして高齢の顧客の裾野が広がっていく中で、苦情件数もおのずと増えていったわけです。
国民生活センターの調査レポートをきっかけに、銀行の外貨建て保険販売について問題意識が高まり、監督当局である金融庁の視線が厳しくなる中で、生命保険協会は18年10月から、生保各社にアンケート票を配り、実態調査に乗り出しました。