11月3日、アイドルグループの嵐が始めることでも話題なったSNSアプリ「TikTok」。折しもほぼ同じタイミングで発売され話題になったのが、『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』だ。その刊行を記念して行われた著者・黄未来さんと、『アフターデジタル』『ディープテック』などの著作をもつ尾原和啓さんの対談は、TikTokの強さの秘密から始まって、中国のインターネットビジネスの潮流にまで及んだ。(構成:田中幸宏)【前編はこちら

ウソをつくインフルエンサーは長い目で見て淘汰される

黄未来(以下、黄) インフルエンサーというと、ステルスマーケティングがあるので信用できない、という方がいるかもしれませんが、中国では、そういうウソをつく人は生き残れないんですよね。インフルエンサーは商品を紹介してお金をもらう広告モデルだから、使ったことがないようなモノでも紹介すると思うじゃないですか。お金をもらっているから、たとえ嫌でも宣伝せざるを得ない。でも、違うんです。

 インフルエンサーの収入パターンは2つあって、1つが広告費。たとえば20秒の動画で1000万円、先にもらいます。残りは成果報酬なんですね。たくさん売れれば、その分報酬も増える。そのたし算でその人の収入が決まるんです。中国でもトップクラスのインフルエンサーになると、めちゃくちゃ売ります。広告費も安くはないけど、それでも売上の10%くらいしかなくて、残りの90%は自分のファンが買ってくれた成果報酬から得ている。そうなると、インフルエンサーはファンの信頼を失うわけにはいかないんです。

尾原和啓(以下、尾原) アフィリエイトは、メーカーからお金をもらうのではなく、(間接的に)ユーザーからお金をもらうことだから、ユーザーに正直であることが大事です。あと、ワンショットで儲けるならステマで売って売り逃げできるかもしれないけど、インフルエンサーは一度売っておしまいじゃなくて、ずっとやっていくわけですから。

 長期的な視点と収入構造の問題で、広告費なんてタカが知れているんですよ。ちゃんとやるほうが自分にとっても企業にとってもうれしいので、インフルエンサーも引き受ける商品をきちんと選ぶようになるし、企業もちゃんと売れてうれしいし、ユーザーもしっかりしたものが買えてうれしい、という「三方よし」の世界が成り立つんですよね。

黄未来(こう・みく)
1989年中国・西安市生まれ。6歳で来日。南方商人である父方、教育家系である母方より、 華僑的ビジネス及び華僑的教育の哲学を引き継ぐ。早稲田大学先進理工学部卒業後、2012年に三井物産に入社。国際貿易及び投資管理に6年半従事したのち、2018年秋より上海交通大学MBAに留学。現在は中国を本拠地として、オンラインサロン「中国トレンド情報局」も主宰。

尾原 日本のオンラインサロンがブームになって2年になりますが、今年残っているオンラインサロンを見ると、ステマとか情報商材系は圧倒的に減っています。やっぱり持続するには、お客様との関係性をオープンにして、お客様のためにやっている人しか長続きできないんですよね。

犯罪防止動画で82人の詐欺師が自首!?

 先日、Douyin(抖音)が年に一度開催しているフェスティバルに行ってきました。紅白歌合戦みたいに、アーティストを呼んだりして大々的にやるんですけれど、そこにいろんな有名Douyinのクリエイターが出てきます。その中に警察官のクリエイターがいたんです。どうやったらオレオレ詐欺を見分けるのか、ということをひたすら発信するんですけれども、ある動画がすごくバズった。「これが詐欺やで、これにダマサれたらアカンで」という動画によって、82人の詐欺師が自首したんです。

※【編集部注】DouyinとTikTokは別個のアプリであり機能も違いますが、同一の下記ビジュアルであることからも、この2つのプロダクトは同じコンセプトであり、TikTokは日本を含むグローバル版、Douyinは中国国内版と理解することができます。

尾原 自首(笑)

黄 これがバズったら、自分の悪行がバレると思って自首したんです(笑)。この世界観、おもしろくないですか。

尾原 警察もその彼を公式に認めているってことですよね?

 そうです。もともと都市ごとに警察の公式アカウントがいっぱいあるんです。この話がおもしろいのは、同じことはYouTubeなら起きなかったということなんです。詐欺防止動画を5分見ろと言われても、長くて見ないじゃないですか。でも、15秒から1分くらいなら、見ちゃうんですよ。Douyinのクリエイターは短い動画が次々と流れてくるので、真面目なコンテンツでも意外と見れちゃう。短い動画のプラットフォームだからこそ、多様なコンテンツの受け皿になれる。そこがDouyinのクリエイターの強みでもあります。

尾原 YouTubeだと、動画を見ている最中に、15秒から30秒の広告が強制的に割り込んできます。これをバンプ広告といって、YouTubeがいろいろ試した結果、これくらいだったらユーザーも見ても大丈夫、というラインが、15秒から30秒のテレビCMと同じフォーマットだったということなんです。

 先日、オリエンタルラジオの中田敦彦さんと話していて、おもしろかったのは、YouTubeはテレビの10年前の歴史を圧縮して進化しているということです。テレビも昔はいたずらドッキリとかくだらないものばかりやっていた。刺激的だから最初はそれがウケるんだけど、そればかり見せられると、だんだん飽きてくる。それで、「世界一受けたい授業」みたいな教育系コンテンツにシフトしてきた。

 YouTubeはちょうどいま、不真面目系、いたずら系にユーザーが飽き始めていて、世間の目がそういうのばかりだとキツイよね、というふうになってきた。そこに、中田さんは真面目系の「中田敦彦のYouTube大学」で参入して、人気を集めているわけです。

 マコなり社長という有名なYouTuberの方が語っていたのは、YouTubeはすばらしいプラットフォームだけど、弱点が2つある。1つは、教育コンテンツを本当にバズらせられるのかというと、いまのところ中田さんくらいの有名人に限る、という点です。中田さんくらい強力なバックグラウンドがないと、真面目コンテンツは、長い映像ではどうしても見られにくい。もう1つの限界は、さっきおっしゃった広告モデルなんですけども。あいだに15秒はさまっている広告は、ユーザーからするとすごく迷惑じゃないですか。ホントにストレスになるだけで。

尾原 そこで止めるなよ、って話ですからね。

黄 YouTubeはまだ「広告=必要悪」という発想から抜け出せていないんじゃないかと思います。それに対して、TikTokは、真面目なコンテンツは超有名人じゃなければ成り立たないというハードルを、短さを武器に乗り越えました。2つめの「広告=必要悪」という点も、TikTokでは「広告=おもしろくて、一緒に楽しむもの」に変わってきているんです。TikTokの広告で「○○チャレンジ」って聞いたことありますか?

尾原 もちろん。

黄 たとえば「#ポッキー花火大会」チャレンジでは、ユーザーがおもしろいと思ったら、ハッシュタグをつけて自分でダンスを踊った動画を投稿するんです。楽しいから、見るだけじゃなくて、広告に自ら参加する。TikTokはまさに「広告2.0」の価値観を打ち出しているんですよね。なのでTikTokには、基本的にうざい広告がないんですよ。そこがすごく新しくておもしろい。

尾原 15秒だったら真面目な人でも、ちょっとおもしろおかしくやることによってエデュテイメント化する、広告もエンタテイメントの一部となって、ユーザーにとってのポジティブなコンテンツになるということですね。

尾原和啓(おばら・かずひろ)
フューチャリスト、藤原投資顧問、書生 1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー、i-mode、リクルート(2回)、Google、楽天(執行役員)など12社で新規事業、投資に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『モチベーション革命』(幻冬舎)はAmazon電子書籍会員にて年間総合1位。『アフターデジタル』(藤井保文氏との共著、日経BP社)は世耕経産大臣の推薦を受ける。近著は『ディープテック』(丸幸弘氏との共著、日経BP社)。 写真:疋田千里

ケタ違いのオーディオブックアプリ

黄 中国のビジネスの発想やビジネスモデルには、日本にないものがいろいろあって、参考になるものが多いんです。たとえば、今回私もはじめて本を出したんですけれど、中国では、本というのは、もはやインテリアか聞くものかという価値観になっています。中国の本は、めちゃくちゃ装幀にお金をかけています。インテリアとして市場をとれないと売れないからです。あとはオーディオブックで、著者本人がサマリーをしゃべったやつを売っています。ユーザーはそれを聞けば「読んだ!」と自慢できる。そういうのが本を読む消費行動のメインストリームになりつつあって、そこも未来感があっておもしろかったです。

尾原 日本人は生真面目だから、そういうマーケットが出てこないんだけど、じつは、アメリカもそうなんですよ。ベストセラーにはたいてい要約本が出ていて、アマゾンでだいたい2ドルくらいで手に入ります。要約本が売れたほうが、元の本も売れるんです。あと、紙の本はインテリア価値ですよね。

 人間は楽したい生き物なので、オーディオで聞くことの罪悪感を取り除いてあげれば、日本でもオーディオブック市場はグングン広がっていくと思うんです。ちなみに、中国のオーディオブックのアプリのHimalaya(ヒマラヤ)には、どれくらいユーザーいると思いますか?

尾原 ながら聞きをするのは都市部の人たちなので、一級都市の半分として、多くて5000万人とかじゃないですか。

 そう思うじゃないですか。でも、じつは4億人もいるんですよ。

尾原 4億(笑)

黄 レベルが違うんですよ。2年前で4億なので、いまはもっと多いかもしれないです。

尾原 そうなると、都市だけじゃなくて、地方の方も楽しんでいるということですよね。中国が東南アジアのベンチマークになるのは、スマホが地方のエンパワーメントに有効だからです。いままでインターネットから最も遠いと思われていた地方の方々が、スマホを使ってものすごく賢くなったり、Taobao(淘宝)でビジネスをしたりという事例が増えています。

インターネットビジネスはタイミングが4割

 すごくいい視点で、中国でグロースするサービスとしないサービスの違いは、地方まで行けるかどうかなんですよ。なので、地方の人たちが使いやすいサービス設計ができるかどうかがめちゃくちゃ大事なんですね。あんまり意識が高すぎるサービスだと、地方に浸透する前に後発組に追い抜かれたり、シュリンクしたりしてしまう。

 たとえば、Pinduoduo(拼多多)というグルーポンのようなサービスを展開しているアプリがあって、いまはBaidu(百度)の時価総額を抜いています。日本人が見ると、めちゃくちゃダサいUI(ユーザーインターフェイス)に見える。しかも、グルーポンって何年前のアイデアなの?と思ってしまうんですけれども。なんでいまさらこんなサービスが伸びているのかというと、ダサくて古めかしいものだから、田舎の人たちにちゃんと広まったんですよ。UIがきれいすぎるECは、逆にそんなに広がらなかったりします。

尾原 インターネットビジネスはタイミングが4割なんです。成功するのはテクノロジーなのか、チームなのか、ファンドのお金なのか、タイミングなのか、となったときに、一番の要因はタイミングだという研究結果が出ています。Pinduoduoが流行ったのは、スマホの普及が中国のレイター層、最初に飛びつく層じゃなくて、地方の方がみんな使うタイミングで、かつ、パケット代が安くなって、カフェのWi-Fiがあまり充実していない地方でも、いつでも衝動買いができる、というゾーンに入ったときに、あえて、あの古めかしいデザインをもってきたところがミソなんです。

 おっしゃるとおりです。

尾原 じつは、東南アジアもいま似たような状況に入っています。日本のベンチャーは3、4年くらい前に東南アジアに進出して、やっぱり普及しないなと諦めて帰ってきているんですけれども、じつは、いまが一番着火すべきタイミングなんです。

 ネット系の方は、自分が美しいと思うUIや、自分が使いやすいと思うUX(ユーザーエクスペリエンス)に対するこだわりが強くて、プライドが邪魔をするのか、レベルを落とせない人が多い印象があります。中国のマインドとして、儲かることがすべてで、儲かるUIがいいUIだと心の底からみんな思っているので、ダウングレードすることに心理的な抵抗感がないんです。

尾原 アハハ、最高ですね(笑)。ただ、それはダウングレードでもなんでもなくて、お客様が一番ほしいUIを提供するのがUIデザインの本来のあり方というだけです。わかりやすい例では、DiDi(滴滴出行)は、深圳バージョンと、上海バージョンでUIが違うんです。

 そうなんですか!

尾原 深圳はどちらかというとバスの文化が強いから、公共交通機関の選択もしやすいようになっています。上海人はせっかちだから、変にポップアップ出すよりも、ポンポンポンポン、次から次へとタップしていくつくりになっています。その都市その都市で何を重視するのかが違うから、それに合わせてUI、UXをつくっていくのが大事です。

 日本のベンチャーはだいたい山手線内にあるので、山手線の中だけ見ると、iPhoneが7割で、フェイスブックとLINEが両方とも使われているんです。でも、地方に行くと、そもそもフェイスブックは使われていません。日本のフェイスブックの普及率は25%しかないんです。しかも、iPhoneよりもAndroidスマホのほうが若干多い。安いからです。そういう現実をちゃんと理解しておかないと、日本の中ですら全国のサービスはつくれません。ましてやグローバルなサービスをつくろうとおもったら、平均単価3万円以下のスマホで、かつ、月に2、3000円くらいしかパケット代が使えないという制約の中で、どうやってビジネスをつくっていくのかを考える必要があります。

 中国発のTikTokが東南アジアでも使われているわけですけど、その理由はなんですか?

黄 TikTokはインド、あとインドネシアも強いです。なぜかというと、ショートムービーがハマりやすい土壌があるからです。1つは文字リテラシーがあまり高くない地域、テキストよりも動画がいいという人が多ければ多いほどいい。2つめは、多言語であればあるほどいいんです。短い動画はノンバーバルコミュニケーションだからです。なので、カオスな環境であればあるほど、TikTokは受け入れられやすいんです。その条件に一番当てはまるのがインドで、次がインドネシアなんですよね。

尾原 もう英語がインターネットの中心ではないし、じゃあ中国語なのかというと中国語でもなく、非言語がインターネットの中心ということですよね。それがユニバーサルだから。TikTokは見事にそこを押さえたサービスだということです。

(終わり)