ソーシャルメディアで事前期待を読むことが勝負の分かれ目

 サービスサイエンスで提唱する事前期待とは、具体的にはどのような概念でしょうか? 人は誰でも、モノやサービスを購入する前に何らかの期待を持っています。例えば、ある野球少年が新しいグローブを買うことを想像してみましょう。

 太郎くんは、地元のリトルリーグで外野手をつとめる野球少年です。近所のスポーツショップにお父さんとグローブを買いにいきました。スポーツショップの店長さんは、お父さんが高校時代に野球をしていた時のチームメイトで家族ぐるみの付き合いです。ここで、太郎くんが購入するグローブに対する事前期待について考えてみましょう。

 まず、外野手のグローブは、大飛球を捕るために通常よりも指の部分が長めのタイプが好まれます。これは一流外野手を目指す選手の誰もが共通的に持つ期待ということで、「共通的な事前期待」と呼ばれます。

 次に、太郎くんは、大リーグのイチロー選手の大ファンです。イチロー選手が使っているグローブのデザインを採用したモデルが欲しくてたまりません。これは、個人的な好き嫌いを反映する事前期待ということで「個別的な事前期待」と呼ばれます。

 この「共通的な事前期待」と「個別的な事前期待」は、大きく変化するものではないので、顧客対応マニュアルや顧客リストデータベース(DB)に登録しておけばマネジメントすることもそう難しくはありません。

 続いて、スポーツショップの店長さんが太郎君の現在のこころを察知して提供するようなサービスを「状況で変化する事前期待」と呼びます。例えば、グローブを買おうと思って来店した太郎くんがバット売り場のイチローモデルのバットにも興味を示して足を止めているところに「グローブと一緒に買ってくれたら1割引にしておくよ」とささやくような場合です。これは、マニュアル化できるものではなく、お客様をつぶさに観察することが重要です。

 最後にスポーツショップの店長さんは、イチロー選手の大ファンである太郎くんへのサプライズとして、イチロー選手のポスターをプレゼントしました。太郎くんは、まったく予期しないプレゼントに大喜びです。これは、本人も気づいていない潜在的な期待ということで「潜在的な事前期待」と呼ばれます。

 このように事前期待の持ち方にはさまざまな種類がありますが、ソーシャルメディアを活用することで対面販売の場合以上に「事前期待を読む」ことが可能になると考えています。